<広島2-1阪神>◇29日◇福井

 天谷が地元で燃えた!

 福井商出身の広島天谷宗一郎外野手(27)が、福井県営球場で行われた阪神戦に先発出場、2回に先制タイムリーヒットを放った。両親や親戚、高校時代の友人ら約40人が見守る中、父の誕生日をバットで祝った。激しい外野定位置争いでも猛アピールとなった。

 スタンドで見守る両親や親戚、福井商時代の仲間たちに、最高のおみやげを届けた。2回1死二塁。天谷は、阪神先発鶴の投じた初球スライダーを見逃さなかった。鋭くはじき返しセンター前への先制タイムリー。これが決勝打になった。

 天谷

 地元で、こういう形で打ててよかった。(声援は)励みにもなりますしありがたいです。

 この日は、父鉄雄さんの57回目の誕生日だった。その日に地元福井に凱旋(がいせん)し、スタメンで起用された。このチャンスを逃すわけにはいかない。

 天谷

 今日はどうしても打ちたい思いがありました。少しは恩返しができましたかね。

 鉄雄さんは天谷の“恩師”だ。5歳から水泳をしていたが、小学校3年で野球を始めたとき、父は「野球をするなら水泳をやめることだ。今日から毎日100本、素振りをしろ」と言った。グラブを買い与え、自宅の庭に防球ネットを張って、毎日のようにティー打撃を繰り返したこともあった。天谷は「その場しのぎはするな!」という父の言葉に従い、徹底的に野球に取り組み、そしてプロ入りした。

 今季は打撃不振などで2軍落ちも経験するなど苦しんだ。4月ごろ、心配して電話してきた父に息子は言った。「僕は2軍に行けと言われても大丈夫だけど、父と母が心配していることが心配だ」と両親の気持ちを思いやったという。

 5月には、母佳恵さん(55)に「母の日」のプレゼントとしてバラのドライフラワーを贈った孝行息子は、3回2死満塁で凡退したことを悔やんだ。「あそこで打っていればもっと楽になった」。どん底から抜け出し、持ち前の思い切りの良さを取り戻しつつある。

 出場停止のため、別室でモニター観戦した野村監督も「地元で先制打だからね。満塁でもう1本出てれば良かったけど、ぜいたくか」と天谷の活躍を絶賛した。天谷は試合後、鯖江市の実家に立ち寄った。激しい外野争いで勝ち抜くため、好物のエビチリなど母の手料理を食べ、つかの間の休息をとった。【高垣誠】