<広島2-1阪神>◇29日◇福井

 アニキがミスターを超えた。阪神金本知憲外野手(43)が8回先頭で、バリントンから左中間に二塁打。通算二塁打を419とし、長嶋茂雄を抜き単独6位に浮上した。同点はならなかったが、かつて走・攻・守のすべてで勝負したスタイルをかいま見せた。右肩故障で守備力が落ちても、かつての走力がなくなっても、次の塁を狙う姿勢は変わらない。

 中堅赤松の快足がすさまじい勢いで迫ってきたが、打球のスピードはその上をいった。8回の先頭。バリントンの直球を完璧にとらえ、左中間を破った。金本は悠々と二塁に到達。代走が告げられ、ベンチに下がると福井の虎党から大きな歓声を浴びた。

 無死二塁。差はわずか1点。ベテランが意地でつくった同点チャンスは惜しくもついえたが、この試合一番の盛り上がりは金本のバットで演出された。苦しめられたバリントンに一矢を報いた。

 「久しぶりに出たね。あの当たりだけが今まで(あまり)出ていなかったから。あそこに長打が出るようになると本来のカネの打撃になってくる」。暗い表情だった和田打撃コーチの顔に笑みが浮かんだ。続いて引き揚げてきた金本は足早にバスに乗り込んだ。

 通算419本目の二塁打だった。並んでいた長嶋茂雄を抜き去り、歴代単独6位だ。二塁打はプレーヤー金本の象徴といえる。広島にいた00年に3割、30本塁打、30盗塁の「トリプル3」を達成したように、打球の飛距離だけでなく、足も武器にしてきた。若いころのようなスピードがなくなっても、次の塁を狙う気迫は変わらない。瞬時の判断で前の塁を狙い続ける姿勢が「ミスター超え」に結実した。

 96年の球宴。同じ北陸路・富山で逆転3ランを放ち、MVPに輝いた。打席に入る前、セ・リーグを率いる巨人長嶋監督に「狙っていけ」と背中を押されていた。その年、初めて打率3割を残し、一流打者の仲間入りを果たした。あれから15年。得意の富山では音なしだったが、福井で記念の二塁打を放った。

 前日28日、渡辺チーフスコアラーの悲報を受けた。03年の阪神移籍と同時に渡辺さんもチーフスコアラーに就任し、その年に18年ぶりのリーグ優勝を達成。「自分の考えをすごくしっかり持っている人」と信頼を寄せていた。前日は3打数ノーヒットと弔いの一打を打てなかった。1日遅れであっても、いい報告になったはずだ。

 敗れはしたが7番打者の復活気配はチームにとっても心強い。夏の訪れとともに鉄人が元気になってきた。【柏原誠】