<プロ野球ドラフト会議>◇24日

 カープファンの優しさが大学NO・1右腕を導いた。広島は九州共立大・大瀬良大地投手(4年=長崎日大)を1位指名。阪神、ヤクルトとの3球団競合の末、九州担当の田村恵スカウト(37)が当たりくじを引いた。学生最後のリーグ戦終了後に広島を旅行したことが、カープと大瀬良、両者の運命を左右した。

 広島が引き当てた瞬間、大瀬良は喜びに満ちあふれた。

 「テレビで田村さんの姿を見ていると、カープがとってくれるんじゃないかと思いました」

 まだ無名だった長崎日大3年から見続けてくれた担当スカウトがくじを引いていた。高校卒業時にもプロ入りを勧めてくれたスカウトとの縁は深かった。

 さらに人生を変えたのは、1枚の無料チケットだった。12日夜から広島出身の野球部員と3人で2泊3日の広島旅行に出かけた。13日にはマツダスタジアムに向かった。CSファーストステージ阪神戦のパブリックビューイングがあると知ったからだ。だが入場には事前に配られた無料の整理券が必要だった。球場入り口で困っていると、60代の小柄で白髪短髪の男性が「3枚あまっているからあげるよ」と譲ってくれた。せめて缶コーヒーでもお礼しようとしたが、「いいよ」と去っていった。

 大瀬良はフェイスブックに「知らないおっちゃんが話しかけてきて、何かなーって思ったらくれた。カープファン最高。ありがとうございます!!!」と興奮を抑えられない気持ちを記している。

 ドラフト直前で阪神が大瀬良の1位指名を固めた。広島は前日23日までに1位が決まらなかった。希望入団枠が廃止された07年以降初めてのことだった。

 大瀬良のパブリックビューイング観戦を知った広島松田オーナーは前日のスカウト会議後「縁があるのかもしれんの」とほおを緩めた。1位指名を決める後押しとなったかもしれない。あの時、あきらめて入場せずに帰っていたら…。大瀬良は「あのおじさんにありがとうございますと言いたい」とドラフト1位候補とは知らず譲ってくれた鯉党に感謝した。

 「(PVの時は)球場で試合をしていなかったのにすごい応援だった。広島は地域密着。熱狂的な声援を受けてマウンドに立つのはすごくうれしい」。広島で大活躍することで、小さな親切に恩返しをする。【石橋隆雄】

 ◆大瀬良大地(おおせら・だいち)1991年(平3)6月17日、長崎・大村市生まれ。鹿児島・国分西小4年から国分西野球スポーツ少年団で軟式を始める。長崎日大では3年夏に甲子園に出場し、1回戦で花巻東・菊池雄星(西武)と投げ合い敗退。九州共立大では1年春からエース。福岡6大学で4度の優勝に貢献。57試合38勝8敗。4年春は主将。最速153キロ。持ち球はカットボール、スライダー、カーブ、スプリット、チェンジアップ。187センチ、88キロ。