一時代を築いたと言えるボクサーが、ついにグローブをつるした。長谷川穂積。具志堅に次ぐ当時国内史上2位の10度防衛後、さらに2度の王座奪取で3階級制覇を達成した。引退会見で3本のベルトを並べて撮影に応じる姿はなかなか格好よかった。

 現役最後の一戦をリングサイドで見ることができた。ダウンなしでも観客は異常と言えるほど盛り上がった。最後の打ち合いはすごかった。いいものを見せてもらった。メインで山中も見応えたっぷりのダウン応酬で防衛。ボクシングの魅力が詰まったファイト、それを2試合も堪能なんてめったにない。

 関西の選手のため、直接話した機会は数少ない。海外キャンプなどへ成田から出発したり、帝拳ジムで練習したり、都内での表彰時などぐらい。それでも気さくで、飾らず、親しみやすいチャンピオンというのは十分に分かった。

 11年に2度目の王座陥落後は苦しい道のりだっただろう。14年に王座奪取に失敗。もう引退した方がと思ったが、あの試合を見せられると…。相手が音を上げて王座を奪ったのだから、大したものだ。

 王者のまま引退なんて、そうできるものでない。国内では新井田が世界王者となった2カ月後に腰痛と達成感を理由に突然引退した。1年あまりたって結局復帰して王座に返り咲き、陥落して引退した。徳山は9度目の防衛後に王座を返上し、現役続行表明も思うような試合が実現せずに引退した例はある。

 ボクサーの引き際は難しい。健康面からジムが引退勧告もするが、移籍して続けるボクサーもいる。王者に限らず4回戦ボーイでもなかなか辞められないよう。海外では金目当ても多いが、日本では「リングでまたスポットライトを浴びたくなる」とよく聞く。辰吉もいまだ現役と言って練習しているように。

 今年亡くなったアリは終盤の試合が病気の引き金になったとも言われる。長谷川は「証明するものがなくなった」と引退理由を説明した。裏には家族らの勧めもあったとは思われる。引退を惜しむ声より、たたえる声ばかり。潔いいい引き際だった。【河合香】