秋場所で初優勝を全勝で飾った大関豪栄道(30=境川)の凱旋(がいせん)パレードが、さる12日、さいたま市西区にある母校の埼玉栄高周辺で行われた。パレード後には、在校生約3000人が体育館に集まり、激励会を開催。九州場所(11月13日初日、福岡国際センター)で綱とりに挑む大関にかかわる、関係者の期待は熱い。

 その中の1人が、恩師でもある相撲部の山田道紀監督だ。その恩師は今から15年ほど前、大阪から相撲留学のかたちで埼玉にやってきた沢井少年の姿を、昨日のことのように思い出す。「入学時は90キロぐらいでしたね。今では荒々しいイメージですが、優しくて真面目で一生懸命で。後輩の面倒見も良かった。神経は細やかで繊細でした」と振り返る。ただ、横綱昇進に挑戦するまでの成長は、想定を超えるものだったようで「素材は良かったけど、ここまで伸びるとは。埼玉栄に来たときは、沢井君が高校チャンピオンになってプロになるなんて、思った人はいないでしょう」と述懐する。

 大関昇進後は思うような成績を残せなかったのが、突然変異であるかのような変貌ぶり…。だが、相撲やスポーツに限らず、辛抱して我慢を重ね、あの全勝優勝が生まれた。

 花の咲かない寒い日は 下へ下へと根を伸ばせ やがて花咲くときが来る

 シドニー五輪女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子さんが現役時代、座右の銘のように大切にしてきた言葉だ。きっと豪栄道も、そんな気持ちで耐えてきたのだろう。見守ってきた恩師も、同じ気持ちだったのではないか。

 山田監督 学校の校訓に「今日学べ」というのがあります。努力次第で第一人者になれるという教え。それを豪栄道は実践してくれたのだと思います。

 恩師の熱い思いを受け、1年納めの九州場所へ。豪栄道も腹をくくっている。「大関に上がって、ケガなど苦しい2年間があって、それでも努力して、いろいろな人に助けてもらって今の自分がある」。今年に入り、同じ日本人大関の琴奨菊、稀勢の里が、綱とりに挑みながら厚い壁にはね返されている姿を、間近でみてきた。胸には恩師らの熱い思いを秘めて、頭の中は「周りの声を気にせずマイペースで」と肩肘張らずクールにさせて、勝負の博多に乗り込む。【渡辺佳彦】