<プロボクシング:WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦>◇27日◇東京・後楽園ホール

 金髪とタトゥーの「反逆の世界王者」が誕生した。WBC世界スーパーフライ級4位佐藤洋太(27=協栄)が同級王者スリヤン・ソールンビサイ(23=タイ)から3回に2度のダウンを奪取。その後もポイントを重ね、3-0の判定勝ちで悲願の王座奪取を成し遂げた。アマチュアの体質が合わず大学中退。プロデビュー戦も黒星。06年には試合中に強度の脳振とうで1年間のブランクもあった。何度もボクシング人生の危機を乗り越え、世界の頂点に立った。佐藤の世界王座奪取で日本人世界王者は史上最多9人となった。

 反逆魂だった。王者を恐れずのみ込む。3回2分すぎ。佐藤は王者スリヤンを挑発するように、右拳をグルグル回しながら、こん身の右ストレートをたたき込んだ。ラッシュから最初のダウンを奪うと、同回終了間際にも、再び右ストレートで2度目のダウンを奪取した。前評判では不利といわれながら一気に勝機をつかんだ。

 中盤以降は捨て身の王者に接近戦を挑まれたが、これまでのボクシング人生のように逃げない。真っ向から打ち合う。苦戦する場面もありながらも、最大6ポイント差の3-0の判定勝利。「最高ですよ。あー。ここまで本当に長かった。一番苦しい試合でした」と涙を流した。

 波乱のボクシング人生だった。正統派のアマチュアのスタイルが合わず、東北学院大を中退。一時は自暴自棄になり、腕、背中、足にタトゥーを入れた。ナンパに明け暮れ、水商売で働いた時期もあったが、再びプロ転向を決意。だが04年2月のプロデビューは黒星スタート。その後はボクシング人生、いや生命そのものの危機にも見舞われた。

 06年5月、プロ10戦目の殿村雅史との6回戦。判定勝利も、試合終了直後に脳振とうを起こし、救急車で運ばれた。一命はとりとめたものの、金平会長からは1年間の試合停止を厳命された。一時は目標を失ったが、救いは家族だった。

 ブランク期間に浩子夫人(27)のおなかに長男洋人ちゃん(5)が宿った。義父には「あと1回負けたらやめます」と誓って同年8月に結婚。「できちゃった結婚だったんですけど、子供の存在は支えでした」。この日も左右のシューズには長男洋人ちゃん、次男桜人ちゃん(2)の名前を入れた。ピンチの時は足元を見て心の動揺を沈めた。

 上京した18歳からガソリンスタンドのバイトをしてきた。月給15万円。お客さんにつばをはかれたり、お金を投げつけられたこともある。「世界王者になって見返してやると思ってた」。練習で使用するヘッドギア、グローブは4回戦ボクサーからのお下がりで、シューズは800円と倹約をして、家族を養いながら、世界の舞台に立ち、悲願の頂点に立った。「1回でも多く防衛することが支えてもらった方への恩返しになる」。金髪にタトゥーの異色の世界王者が誕生した。【田口潤】

 ◆佐藤洋太(さとう・ようた)1984年(昭59)4月1日生まれ、岩手県盛岡市出身。マイク・タイソンに憧れて中学3年でボクシングを始める。盛岡南高3年時の国体3位、インターハイ5位。04年2月のプロデビュー戦は黒星。10年5月日本スーパーフライ級暫定王座獲得。同9月に正規王座に。プロ戦績は24勝(12KO)2敗1分け。171センチの右ボクサーファイター。