満員札止めの両国国技館が、失望のため息につつまれた。2敗の横綱鶴竜(30=井筒)が、3敗の大関稀勢の里(29=田子ノ浦)を寄り倒した。だが、観客は「その前」に敏感に反応した。まばらな拍手に、ブーイングが交じった。横綱として前代未聞の、2度の変化に対してだった。

 目前で、ケガをおして出場した照ノ富士(23=伊勢ケ浜)が敗れた。勝てば単独トップに立つ、結びの一番。鶴竜は立ち合いで右に変化した。これは、手つきが不十分で行司に止められたが、館内がどよめく。その中で、鶴竜は開き直っていた。「勝負に勝とうという気持ちでいった。1度目は慌ててちょっと失敗したので、もう1度、気にせずにいこうと思った」。

 2度目の変化。今度は左に動いた。結局は踏ん張られて、相手得意の左四つに組まれた。勝負を決めたのは、下がりながらの右の巻き替え。もろ差しになって左から振り、すんでのところで体を入れ替えた。敗れれば、取り返しのつかない一番になるところだった。

 変化は決して反則ではない。だが、受けて立つのが、最高位に就く横綱の姿。まして、優勝を占う大一番での注文相撲。胸を張れる勝ち方だとは到底、言えない。

 だが、それ以上に、まだない「横綱初優勝」への思いが強かった。白鵬と日馬富士が不在の今場所。「チャンスを逃したくない」と言う目には、追い詰められた横綱の姿があった。