かど番の大関琴奨菊(32=佐渡ケ嶽)が8敗目を喫し、大関からの陥落が決まった。関脇玉鷲に一方的に押し出され、史上10位の32場所務めた地位を手放した。大関陥落は13年九州の琴欧洲以来16人(19度)目。師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)は引退する可能性を否定し、関脇に転落する春場所(3月12日初日、エディオンアリーナ大阪)で10勝して大関復帰を目指す方針を示した。

 低い重心で押し込む本来の姿とは、程遠かった。琴奨菊は、玉鷲ののど輪で上体を起こされると、そのまま真後ろに下がって土俵を割った。11年九州から32場所守った大関からの陥落が決まる8敗目。厳しい現実に「まあ、これが今の力だと思う」と唇をかんだ。

 7度目のかど番で、ついに角界の看板の地位を失った。何度も痛めた左膝には、場所前から不安があった。だが、4月に誕生予定の第1子のため気持ちを奮い立たせた。この日の朝も「相手も強いけどオレも強いから。いいところを出せれば」と逆境をはね返す決意だったが、結果は残酷だった。

 5敗目を喫した7日目の夜、師匠の佐渡ケ嶽親方から焼き肉に誘われた。「関脇に落ちても、10勝して大関に上がればいいじゃないか」と激励され「はい」とうなずいた。30日には33歳を迎え、左膝の他に大胸筋断裂の古傷もあるが、心は折れていない。

 「負けて終わりじゃないから。辞めたら終わりだから。自分の気持ちを立て直して、しっかりやっていきたい」と前を向いた。佐渡ケ嶽親方も「来場所もやることは、2人で決めてます」と引退を否定した。日本出身力士として10年ぶりに賜杯を抱いた昨年初場所の歓喜から1年。屈辱の悲劇を乗り越える気力は、まだ残っている。【木村有三】