アカデミー賞に、新たに「人気映画賞」が加わることが発表されました。近年は授賞式の視聴率は低迷を続け、今年はついに史上最低を記録。なんとか視聴率低迷に歯止めをかけたいアカデミーが、その打開策として打ち出したのがこの人気映画賞だと言われています。ハリウッド映画界で最高の名誉とされるアカデミー賞は、監督や俳優、プロデューサーら会員の投票で決められるため、一般の観客の間でヒットしたその年を代表する人気作品は候補にあがらないことが多いことで知られていますが、この新たな人気映画賞はどのように受け取られているのでしょう。

 アカデミー賞作品賞には、評論家の評価は高いものの一般の人にはあまりなじみのない作品が候補入りすることも珍しくなく、そのズレが授賞式の視聴率低迷につながっていると指摘されていました。今回新設される人気映画賞は、詳細はまだ明らかにされていないものの、これまでは作品賞の候補入りが難しいと言われてきたヒーロー映画やSF、アクションなども対象になるため、「アベンジャーズ」や「ミッション・インポッシブル」シリーズなども候補入りする可能性が高いと見られています。過去には「タイタニック」(97年)や「グラディエーター」(00年)が作品賞を受賞したこともありますが、興行面で大成功した映画が作品賞を受賞することはとても稀で、クリストファー・ノーラン監督が手掛けた「ダークナイト」(08年)も8部門にノミネートされながらも作品賞の候補からは漏れてファンを落胆させました。「オスカー候補入り」の呼び声が高かった同作が作品賞ノミネートを逃したことがきっかけで、作品賞の枠が5作品から10作品に拡大されましたが、それでも娯楽作品が候補入りするのはハードルが高く、「スター・ウォーズ」シリーズなども候補から漏れています。ここ5年間の受賞作を振り返っても、今年の「シェイプ・オブ・ウォーター」や昨年の「ムーンライト」などいずれも大ヒットした娯楽映画からはかけ離れたものばかりで、そのことからも一般の映画ファンとのギャップがあることは明白。しかし、単に人気映画賞を設けることが視聴率回復につながるのか疑問視する声も少なくなく、むしろ権威あるアカデミー賞の質を落とす可能性も指摘されています。

 仮に来年2月に行われる授賞式からこの人気映画賞が新設されると、今春大ヒットした「ブラックパンサー」や「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」などが候補入りすると思われますが、実際には映画ファンからも批判的な意見が多く出ています。特に「ブラックパンサー」はアカデミー賞作品賞候補入りの可能性が高いと言われているだけに、本来は作品賞として評価されるべき娯楽映画が作品賞から除外される可能性を心配する声は少なくありません。また現時点で人気映画の基準が曖昧なこともあり、「単にヒット作を取り込みたいだけ」など否定的な意見も多く聞かれます。俳優ロブ・ロウはツイッターで、「最悪のアイデアだ。映画界は死んだ」と書き込み、アカデミー賞が単なる人気投票に落ちぶれることへの危機感を露わにしています。また、バラエティ誌の編集者も「『ブラックパンサー』と『ミッション・インポッシブル』は作品賞を争えないってこと?」と疑問を投げかけていますが、一方で時代に合わせた決定だとポジティブに受け取っている人たちも少なからずいるようです。

 果たしてこの人気映画賞が視聴率回復の起爆剤となるのか、今後の賞レースへの影響はどうなるのか、また注目の「ブラックパンサー」のノミネートの行方など、来年のアカデミー賞は少なからず注目を集めることは間違いないでしょう。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)