宝塚歌劇団花組の新トップ娘役、仙名彩世(せんな・あやせ)は娘役としては異例の遅咲き。月組新トップ珠城(たまき)りょうと同期で今春10年目を迎え、トップ明日海(あすみ)りおの相手役を務める。明日海の3代目パートナーは「寄りかかりすぎないように、しっかりサポートを」と全国ツアー「仮面のロマネスク」「EXCITER!!2017」でトップ初作品に臨んでいる。ツアーは4月9日の北海道まで残り6カ所18公演。

 新人公演でのヒロイン経験もない。異例のトップ娘役への抜てきだ。

 「夢なのか、現実なのか。毎日、やることに追われつつも。充実しています。今までやってきたことを認めていただけたのかな」

 言葉とは裏腹。穏やかな表情に、娘役として10年の自負が見える。

 「明日海さんからは『頑張りすぎないように』と。どうしても力んでしまうので。『1人ではなくて、2人で場面、役を作っていくことを、楽しみながらできたらいいね』と、おっしゃっていただきました」

 歌、ダンス、芝居と技術を磨きあげ、最近では年長女性の役が多かった。16年2月のドラマシティ公演では、専科スター轟悠の相手役ヒロインも経験した。

 「主演娘役は(宝塚)音楽学校に入学したときに、誰もがあこがれる立場。私はその上で、どう舞台をおもしろくするか、役者としてどう舞台の質を高めるか、追求してきました」

 役者としての表現力磨きに専心していたとき、トップ娘役就任が決まった。

 「幅の広い役をいただき、娘役、表現者として、アクセサリーやメークもこだわり、背中を、下級生に示せるようになりたいと思っていたところでした」

 地道に努力をする才能はある。子供のころからバレエを習い「ケガをしたら困る」と運動部には入らなかった。高校は地元仙台でも有数の進学校。新体操部の友達に影響され、歌にも興味を持ち、「自分探し」を始めたところ、母から宝塚受験を勧められた。

 「受験2カ月ぐらい前に決断。調べると、音楽学校には三味線もタップダンスも授業があった。『やりたいこと』が見つけられるかも? と思いました」

 一発合格。音楽学校では「全部を極めたかった」と言い、首席で卒業。劇団に入っても地道に、腕を磨いてきた。「今も課題はあります。日本舞踊…ですね…」。15年1月には、当時専科の前星組トップ、芸達者な北翔海莉(ほくしょう・かいり)主演の和物舞台で、ヒロインを務めた。

 「北翔さんの稽古への(ストイックな)姿勢を見て、私もこれぐらいやらねば、日本物を好きになれないと痛感いたしました」

 先輩の背中から学んだことも、財産として蓄える。

 「明日海さんは貫禄があり、誰もが認めるトップスター。頼もしい方。寄りかかりすぎず、私もサポートできるように、信じてついていきたいです」

 2学年下の前トップ娘役、花乃(かの)まりあからは「きっと大丈夫ですよ」との“お墨付き”をもらった。先輩、後輩、仲間の言葉を胸に、明日海に寄り添い、伴走する覚悟を決め走り始めた。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「仮面のロマネスク」~ラクロ作「危険な関係」より~(脚本=柴田侑宏氏、演出=中村暁氏) 舞台は、動乱に揺れる1830年のフランス宮廷。美貌の青年貴族ヴァルモン(明日海)と、若き未亡人メルトゥイユ侯爵夫人(仙名)の冷徹で、官能的な恋の物語。宝塚では97年に高嶺ふぶき、花總まりにより初演。12年に大空祐飛、野々すみ花で再演。

 ◆スパークリング・ショー「EXCITER!!2017」(作・演出=藤井大介氏) 刺激、熱狂、興奮をテーマにしたショー。09、10年にも花組で上演。

 ☆仙名彩世(せんな・あやせ)12月3日、宮城県生まれ。08年3月に初舞台、花組配属。新人公演のヒロイン経験はないが、北翔主演の15年「風の次郎吉」で、轟主演の16年「For the people」でヒロイン。今年2月にトップ娘役就任。蘭乃はな、花乃まりあに続き、明日海の3代目の相手役。身長162センチ。愛称「ゆき」。