フランス・カンヌは現在、23日午後6時。カンヌ映画祭も、残りわずかとなった。

 最終日24日の授賞式で発表される最高賞パルムドールを争うコンペティション部門には、日本からは綾瀬はるか(30)長沢まさみ(27)夏帆(23)広瀬すず(16)が4姉妹を演じた是枝裕和監督(52)の新作「海街diary」(6月13日公開)が出品されている。

 カンヌ映画祭では、忘れられない1本との出会いがあるもの…今年も、コンペティション部門全19本の中で1本の映画と出会った。その作品は、実は日本にも縁がある。北野武監督(68)が所属するオフィス北野が製作に名を連ねる中国、日本、フランス合作映画「山河故人(原題)」だ。今回でコンペティション部門4回目の出品を果たし、功労賞「ゴールデンコーチ賞」を受賞した中国のジャ・ジャンクー監督(44)がメガホンを取り、同監督の妻の中国女優チャオ・タオ(38)が主演。オフィス北野の市山尚三氏がプロデューサーを務め、製作総指揮には同社の森昌行社長(62)も名を連ねる。音楽を担当するのは、監督デビュー作「雨にゆれる女」(16年公開)の撮影を終えたばかりの音楽家・半野喜弘氏(47)だ。

 物語は99年の中国山西省、14年の同河北省、25年のオーストラリアと過去、現代、未来の3つの時間、計26年の時の流れを生きる中国人男女を描く。チャオ・タオ演じる主人公タオは、99年に炭鉱労働者リャンズーと恋愛関係にありながら、共通の友人でもある実業家ジンシェンからプロポーズされ、結婚する。

 14年。ジンシェンと離婚していたタオは、父が亡くなったことを受け、離れて暮らす息子ダラーを葬儀に呼ぶ。その時、ジンシェンとダラーがオーストラリアに移住しようとしていることを知る。

 そして25年。19歳になったダラーは、長いオーストラリアでの寄宿生活で、中国語がほとんど話せなくなり、同世代の中国人とばかり付き合う父ジンシェンと会話が出来なくなっていた。父とのコミュニケーションを取るため、中国語を学び始めたダラーは、ホンコン出身で、夫と離婚した50代の中国語教師ミアと出会い、年齢を超えて引かれあうようになる物語だ。

 ジャ・ジャンクー監督は、中国の急速な社会、掲載の変化を題材にしてきた。「山河故人」では近年、中国で大きな問題と考えられている移民にスポットを当てた。若い夫婦が良い生活と教育を目的に、米国やオーストラリアに移住するケースが増えた結果、現地に住む中国人の中で中国語を全く話さない若者もおり、同監督は自らその事実を知り、衝撃を受けたという。

 映画を見ていて、家族とはいったい、何なんだろう…と深く考えさせられた。タオは、より収入も社会的地位もある実業家ジンシェンを伴侶として選びながら、離婚し、息子ダラーとも離れ離れになり1人で暮らしている。またジンシェンも、ステップアップのためオーストラリアに移住しながら、息子ダラーが英語を覚えるにつれ中国語を忘れ、会話が通じなくなる。そのダラーは、幼いうちに母と離れ離れになった影響からか、母くらい年が離れたミアに心のよりどころを求める。

 人生の選択に迫られる際は、誰もがより良い方向を選択しようと熟慮する。「山河故人」では、その選択が皮肉な方向に進み、キャラクターたちが図らずも孤独になっていく。それでも、人は人として生きていくもの…そんな深いメッセージを投げかけられた思いだった。

 果たして、委員長のジョエル&イーサンのコーエン兄弟(米国)をトップにすえる審査員たちは、パルムドール受賞作に何を選択するのか。映画祭のクライマックスが迫る中、「海街diary」と「山河故人」の評価が気になる。(カンヌ=村上幸将)