吉永小百合(70)主演映画「母と暮せば」(山田洋次監督)が12日、封切られ、興行収入(興収)30億円超えを見据える好スタートを切った。吉永がこのほど日刊スポーツの単独取材に応じ嵐・二宮和也(32)と母子を演じた日々から女優としての新たな挑戦まで、胸に秘めた思いを語った。

 吉永は初めて息子を持つ母を演じた。二宮との初共演決定は、二宮のスケジュールの都合で難航した。

 「決まったと聞いた時、跳び上がって喜びました。(1年前の製作発表)会見から皆さんに似ていると言われ、2人でいるだけで母と息子になれた。演じている感覚じゃなかった」

 自然に母子になれたカギは、二宮の人間性だった。

 「本当に礼儀正しいし、爽やか。ビックリしました。こんな青年がいたらいいなあと思うような人。(休憩時には)けん玉で遊んだり、ひょうきんで、みんなを和ませるんです」

 高倉健さんら名優との共演を重ねた中、初参加の山田組で輝く演技を見せた二宮を「天才」と評した。

 「山田監督の細かい演出をパッと受け止めてやれちゃう。あと“号外”といってセリフが朝、変わるんです。二宮さんも長ぜりふで1回あって…でも、ちゃんとご自分のものにした。楽しく表現してくださることで、重いテーマですが笑える作品になったと思う。アイドルの枠を超え、俳優として無限の可能性がある」

 「母と暮せば」は吉永にとって119本目、山田組5本目の映画。井上ひさしさんが、広島を舞台に映画化もされた戯曲「父と暮せば」と対になる長崎を舞台にした物語のタイトルまで決めながら亡くなったことを受け、山田監督が映画を製作した。

 「映画ですが手法としては舞台。私は舞台をやったことがないわけで、映画俳優としてのノウハウが全然通じなかった。山田監督が考えて作られたファンタジーで、現実から(亡霊の)息子が現れると夢うつつの世界になり、とても不思議な感覚でした。監督は『これは落語なんです』とおっしゃった。落語は顔の向きを変えるだけで場面も役柄も変わる…そういうことねと思いました。台本をもらった時は長いせりふでどうしようと思った。(人生で)一番、難しい役でした」

 ラストについての考え方で山田監督に驚かされた。

 「教会で息子に連れて行ってもらって天に召される…幸せだと思って演じましたが、生きる力をもらって助産婦として働いてほしかったという方もいらっしゃった。監督に申し上げたら『その場合、シナリオはこうなるんだ』と話してくださった。すごいと思った」

 初プロデューサーを務めた昨年の「ふしぎな岬の物語」を含め、公開後は必ず劇場に足を運び観客とともに見る。一女優に戻り、最難関に挑んだ今回は「お客さんと一緒に見るのはすごく勇気がいります。題材が題材だから」と言う。自身の今後についても「見えたかどうかは分からない…次に、どう生かせるかということですね」と冷静に見据える。その中、公開4日目の15日現在、興収3億7950万円と好スタートを切った。新たな代表作誕生の予感が漂う。【村上幸将】

 ◆「母と暮せば」 長崎で助産婦をする伸子(吉永)の前に、3年前の原爆投下で亡くなった次男浩二(二宮)が現れ「僕はもう死んでるんだよ」と告げる。亡霊となった浩二は時々、現れるようになり、恋人町子(黒木華)のことを聞いてきた。伸子は町子に新たな恋人ができたら諦めるよう告げ、浩二に抗議される。