音楽家の坂本龍一(64)が13年に編成した、東日本大震災の被災地岩手、宮城、福島3県の小、中、高、大学生中心の楽団「東北ユースオーケストラ」が26日、東京オペラシティコンサートホールで、第1回演奏会を開いた。

 この日は、坂本が制作した「ラストエンペラー」、一昨年7月に中咽頭がん公表後の復帰作となった映画「母と暮せば」(山田洋次監督)の音楽のほか、米の作曲家ジョージ・ガーシュウィンのジャズ「ラプソディ・イン・ブルー」、チャイコフスキーの「交響曲第5番ホ短調 作品64」を披露。震災発生当日に被災3県にいた、もしくは現在、在住の105人が、合宿で磨いた腕を披露した。

 「母と暮せば」の演奏の際は、主演の吉永小百合(71)が登壇し、ライフワークとして86年から続ける詩の朗読を行った。吉永は東日本大震災の被災者、福島市の詩人和合亮一さんや、和合さんが10年からプロデュースする福島の小中学生対象の「詩の寺子屋」での、子どもたちの詩、合わせて5編の詩を、坂本のピアノと子どもたちの演奏をバックに朗読した。

 吉永は昨年12月に受賞した菊池寛賞の副賞100万円全額を、今回の演奏会に寄付した。さらに8日には、福島県郡山市を訪問し、原発事故で避難を余儀なくされ、同市内の仮設住宅で暮らす富岡町と川内村の住民約140人と直接対話する集いを開いた。吉永は、被災者との対話を思い出しながら「今日のすばらしい演奏会を、仮設住宅で寂しい思いをしている、おじいちゃん、おばあちゃんに、ぜひ聴かせたい。被災地の人のことを忘れてほしくない。このオーケストラの応援は続けていきます」と、演奏した子どもたちと客席に呼び掛けた。

 さらに、ジャズピアニスト山下洋輔(74)も登場し、「ラプソディ・イン・ブルー」「交響曲第5番ホ短調 作品64」との2曲では、全身を鍵盤にたたきつけるような、圧巻の演奏を披露し、コンサートを盛り上げた。アンコール曲「エチュード」では、作曲した坂本と、並んでピアノを引き合う“競演”で会場を沸かせた。

 坂本は最後に、合宿をともにした子どもたちの成長と感動を熱っぽく語った。

 「とても素人の、子どもの演奏とは思えない。すごい。みんな、良かったね。最初はどうなるかと思ったけれど、みんなの吸収力はすばらしい。子どもにしか出せない音って、あると思う」

 仙台市から参加し、第1バイオリンを演奏した畠山茜さん(大学1年)は、「最初は知っている人はいなかったけれど、(練習のため)毎回福島に行って、練習を積んで、友だちになりました。みんなで音楽を作ることができた。坂本監督をはじめとした皆さんのお力添えで、すばらしい演奏ができました。音楽を伝えることを続けたい」と笑みを浮かべた。郡山市から参加し、第2バイオリンを演奏した福田大真君(小学4年)は、「練習より、うまく弾けました。(被災者らを)元気づけられるなら、(105人で)一緒に弾けてうれしいし、もっとやりたい」と今後に意欲を見せていた。