「ビックリ感」。

 就任から、はや4カ月。東京都の小池百合子都知事(64)が打ち出す政策や言動を見ていると、こんなキーワードがベースを構築しているような気がする。ビックリ感を醸し出す、セルフプロデュースにもたけた政治家だと思ってきたが、今月10日、都内のホテルで行われた政治塾「希望の塾」(第3回目)の演出には、久しぶりにビックリ感を感じた。

 イメージカラーのグリーンの照明と派手な音響の中、小池氏は登場した。毎年自民党の党大会でも使われる宴会場に全員が入りきれず、党大会では懇親会会場となる隣の部屋も使い、約3000人を収容。地元の東京・池袋にある大学のホールで行われた第1、2回の講義の演出とは対照的だった。小型のマイクをつけて、ステージを歩いて講義する小池氏。IT企業の新作発表会や、「白熱教室」のサンデル教授を意識したのだろうか。塾生には、当日のプログラムが、特製のクリアファイルに入って配布された。

 五輪会場の見直し問題は当初予定に落ち着きそうで、都知事選で自身を支持した区議7人も除名処分になった。これまでの「イケイケ路線」にブレーキがかけられたような事象が続く中、巻き返しをねらい、自分自身にエンジンをかけ直す狙いもあったのかもしれない。

 その日の夜、自身のツイッターに、立ち食いステーキを食する「肉食系女子」の姿を投稿したのも、ビックリ戦略の一環ではないだろうか。

 小池氏は「脚線美を見せる女性キャスターの先駆け」といわれ、日本新党から92年の参院選に出馬した際は、代表の細川護熙氏とともに、ときにミニスカート姿でPRの前面に立つこともあった。今は「都政の見える化」をうたうが、「見せる化」も意識してきた。これがある意味、ビックリ感につながることも多い。

 今回の「小池塾」の演出で思い出したのが、1994年(平6)12月の新進党の結党大会だ。横浜市の国際会議場で行われた大会のフィナーレで、キャノン砲が鳴り、キラキラした飾り物も舞い降り、出席者が座った1階席が「新進党」と書かれた巨大な幕で一気に覆われた。客席から、驚きの声が上がったのを覚えている。

 このアイデアを出したのが、小池氏だった。

 失敗すれば悲惨な展開も予想されたが、この演出を実現したいと、広報セクションの上司だった、故鳩山邦夫氏に申し出た。「責任は僕が持つから」とゴーサインを得て、踏み切ったところ、結党したばかりの野党の党大会とは思えない派手な演出につながった。

 環境相時代の「クールビズ」も、「今まで当たり前だと思われてきたことを、変えたい」という考えがベース。さきごろ、肝いりで始めた都庁職員の「午後8時退庁」も、「午後11時を10時にしても、意味がない。クールビスではないが、意識改革はビックリ感がないとだめ」と、驚きのリアル化にこだわった。

 そんなビックリ感でいえば、今月2日の定例会見で、五輪会場見直し問題の成果を「大山鳴動してねすみ1匹」と指摘され、「『黒い頭のねずみ』がいっぱいいることが分かったじゃないですか」と、反論したことにも驚いた。

 「黒い頭のねずみ」は、辞書によると「食物をかすめ取る人」とある。ねずみ1匹と指摘され、思わせぶりな「黒い頭のねずみ」という言葉を持ち出した。

 これまでの都政の情報公開が不透明とし、「ブラックボックス」とまで言ってきた小池氏のことだ。たとえ「ねずみ1匹」の成果でしかないという批判的な質問も、「黒いねずみ」の存在のアピールにすり替えた。ピンチを絶好のチャンスに置き換えるしたたかさにも映り、ある意味、ビックリした瞬間だった。