スウェーデン・アカデミーは13日、16年のノーベル文学賞を、米シンガー・ソングライター、ボブ・ディラン(75)に授与すると発表した。115年にわたる同賞の歴史で、歌手の受賞は初めて。米国人の文学賞も23年ぶり。米国音楽の伝統に、新たな詩的表現を創造したと評価された。近年は作家村上春樹氏(67)とともに同賞の「常連候補」。デビュー時から評価を受けてきたメッセージ性の強い歌詞が、名実ともに文学として認められた。村上氏は今年も受賞を逃した。

 デビューから半世紀あまり。今でも、代表曲「風に吹かれて」が歌い継がれ、世界中にファンを持つディランの詩の世界が、ついに文学へと「昇華」した。

 スウェーデン・アカデミーは、授賞理由を「米国音楽の偉大な伝統の中に、新たな詩的表現を創造した」と述べた。ウェブサイトの経歴には、「偶像視され、現代音楽に与えた影響は深遠だ」「アーティストとして際だって多才で、画家や俳優、脚本家としても活動してきた」と記された。「恐らく、存命中の最も偉大な詩人」と賛辞が並んだ。

 歌手のノーベル文学賞受賞は初めてだが、この10年ほどは村上春樹氏とともに、文学賞の「常連候補」。英ブックメーカーの直前オッズでは、7位だった。

 ディランは41年、ユダヤ系移民の家庭に生まれ、大学在学中からフォークを歌った。1962年(昭37)にデビュー。当時公民権運動やベトナム戦争で揺れる米国で、戦争や人種差別に反対するメッセージ性の強い「プロテストソング」(抗議の歌)を次々と発表。特に「風に-」は、公民権運動を象徴する歌となり、若者の絶大な支持を得た。

 時代にこびず、独特のしわがれ声でギターをかき鳴らし、フォークにとどまらず、ロックやカントリーも取り入れた独自の音楽の世界を構築。ビートルズやブルース・スプリングスティーン、U2など世界的アーティストに影響を与えた。日本でも「フォークの神様」と呼ばれ、今も多くの歌手がカバーしている。

 近年は社会的評価がさらに高まり、08年、ポピュラー音楽と米国文化への貢献が評価され、ピュリツァー賞で特別表彰。12年には、米国の文民最高位の勲章「大統領自由勲章」も受けた。米国では、大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ氏の人種差別発言に批判が拡大。トランプ氏の言動に対する、痛烈な戒めとなりそうだ。

 ディランは78年の初来日以来、たびたび日本を訪れている。今年4月もツアーを行い、日本公演は100回を超える。13日(現地時間)には米ラスベガスでライブが予定され、ステージ上での発言が注目される。

 文学賞の賞金は、800万クローナ(約9400万円)。授賞式は12月10日、ストックホルムで行われる。

 ◆ボブ・ディラン 1941年5月24日、ミネソタ州デュルース生まれ。本名ロバート・アレン・ジンママン。62年にアルバム「ボブ・ディラン」でデビュー。翌63年、歴史的プロテスト・ソング「風に吹かれて」を含む「フリーホイーリン・ボブ・ディラン」、64年「時代は変る」、65年「ライク・ア・ローリング・ストーン」を発表。フォークからロックへの転換は物議を醸し「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」など60年代を代表する歴史的名盤もある。ロックの殿堂入り、グラミー賞、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞(主題歌賞)他、数多くの賞も受賞。

 全世界アルバム・トータルセールスは1億枚超。自作曲は600曲以上、世界で2000回以上のライブを行った。日本でのコンサートは、78年に東京と大阪で行って以降8回来日。公演数も100回を超えた。今年4月のツアーでは、全国5都市で16公演を行い、4万5000人を動員。