米大統領選ががぜん緊迫してきた。女性問題と3回のテレビ討論で共和党のドナルド・トランプ氏(70)が失速し、民主党のヒラリー・クリントン氏(69)が安全圏の12ポイント差までリードを広げていたが、10月28日にFBIが私用メール問題の捜査再開を発表。一部世論調査ではトランプ氏が初めて逆転した。8日の投票まであと4日。近著に「大統領の演説」がある大統領選ウオッチャー、タレントのパックンことパトリック・ハーラン(45)に直前解説してもらった。

 大統領選は普通、激戦州でしかCMを流さないんですが、クリントン陣営は3週間前、真っ赤な州のテキサスやユタでもCMを流し始めました(赤は共和党シンボルカラー)。すごい余裕だったのに今週に入って青のバージニア、コロラドが赤みがかってきて紫色になってきました(青は民主党シンボルカラー)。メール問題の捜査再開でオクトーバーサプライズが起きたんです。

 ヒラリーもトランプもウソつき同士だけど、政策面では完全にクリントンの勝ち。テレビ討論でどちらが大統領にふさわしいかもハッキリした。常識人はみんなクリントン支持です。でも彼女は公平な基準で裁かれない。夫のビルは人気者だけど、彼女は嫌われ者。女性差別も根底にありますが、人間的なあったかみを感じないのも問題です。

 宇宙人が候補になっても、宇宙人より変なトランプが候補になっても共和党という人が3割ぐらいいます。「トランプ支持」の中心となっている中高年の負け組の白人男性だけでなく、トランプはいろいろな人が反応するボタンを押すのがうまい。銃規制、中絶、移民…。絶対反対という人に向け、反移民、反貿易協定、反女性、反銃規制、反中絶と“ワンイシュー・ボタン”を押す。そのワンイシューで動く人がいる。女性が大統領になってほしくないという人には、他に選択肢はないんです。

 3週間前までは85%の確率でクリントンが勝つと思っていました。今でも7対3でクリントンと思っています。僅差になって投票率がカギを握る感じ。投票率が高いと民主党、低いときは共和党が有利です。共和党はコアの支持者が多く、必ず選挙に行きますが、(民主党支持層の)低所得者層やヒスパニック系はそこまで余裕がない。フロリダなどの激戦州は「お天気次第」。雨が降って大統領が変わるという、一番怖いことが起こるかもしれない。

 政治能力はない、統率力はない、ブレーンもいない、党内の重鎮は誰ひとり支持していないトランプが大統領になっても、何もできないことは目に見えています。

 ただ、クリントンも苦しい。一緒に行われる上下両院選挙で上院は民主党が過半数を取りそうですが、下院はこの1週間で絶望的になった。ビル・クリントンだったら国民の民意をつけて共和党が牛耳る議会と向き合うことができるけど、ヒラリーにはできない。今のオバマ政権と同じでやりたいことができないでしょう。どっちになっても米国はマヒしたままです。【聞き手・中嶋文明】

 ◆パトリック・ハーラン(Patrick Harlan) 1970年11月14日、米コロラド州生まれ。93年にハーバード大学比較宗教学部卒業後、来日。吉田真(43)とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成。東京工業大学非常勤講師。家族は日本人の妻と1男1女。