今日10日に行われる柔道男子90キロ級に登場するベイカー茉秋(21=東海大)を、柔道界では「新種」と呼ぶ。女性雑誌やタレントのマツコ・デラックスも注目する話題のイケメン柔道家には、家族、恩師も驚く出来事ばかり。男女計14人の代表選手で唯一世界ランク1位として臨む大一番を前に、その素顔を探った。

 (1)【八百屋】

 6歳で柔道の総本山、講道館(東京・文京区)を拠点とする春日柔道クラブで競技を始めたベイカー。五輪、世界選手権の壮行会も開かれ、有名選手も触れ合ったが、最初にサインをもらったのは谷亮子。しかし…。「ヤオヤさんにサインもらったよ」。家族に自慢するも、とても「ヤワラちゃん」とは理解されず。日本男子の井上康生監督ともその頃に初対面していた。

 (2)【ギョーザ】

 柔道家ならば、畳の上の回転運動や、道着によるこすれで耳がつぶれるのは当たり前。いわゆる「ギョーザ」状態こそ、むしろ勲章のように思われているが…。高校生の時に母由果さんが「耳がギョーザじゃない強い選手がいてもいいんじゃないの」と何げない一言をつぶやくと、食卓から冷蔵庫に直行。氷で耳を冷やし始めた。

 オリジナリティーを最重視する姿勢は柔道にも表れる。しっかり両手で相手の道着を持つ、いわゆる「2本持つ」スタイルでなく、外国勢が得意とする接近戦を主戦場にする。日本育ちでは珍しいが、そこにも独自性への強いこだわりがある。

 (3)【相手知らず】

 13年12月のグランドスラム東京。日本で唯一行われる国際大会では、大学1年生にして優勝を飾る。ただし、09年世界王者の李奎遠(韓国)戦の前に「決勝の相手はどっち組みですか?」。質問を受けた東海大の上水監督は「いま聞くかと。入ってみて初めてこの山を登るんですというタイプですね。変わっている」。これがシニアの国際大会デビュー戦だったが、外国勢の情報はほぼ皆無で勝ち進んでいた。試合中に相手の特徴を探り、すぐに対抗策を練れるのが強みの1つだ。

 (4)【ペットボトル】

 ある大会の試合前に、上水監督から飲料入りのペットボトルをもらうと「これふたが開いてますよ」の指摘。集中力を高めている場面で、冷静に開封済みを指摘した。何かしらの薬などが入れられていたら危険きわまりない。ドーピング検査も頻繁にあるため、冷静な指摘だった。自分に害になる情報や出来事は見逃さない。

 (5)【会長】

 国際柔道連盟のビゼール会長について「僕のことがお気に入りなんですよ」と自信満々。暴力指導問題が話題になっているときに「ツイッターで絡んだから」と自信満々に話す。表彰式でも声をかけられたという。誰にも臆さずに接点を設けようとする積極性は、柔道にも通じる?

 

 (6)【係】

 4月に最高学年になったが、与えられた役職は備品管理長。部屋の片付けが苦手で、少しおっちょこちょい。本人もよく分かっているだけに「みんな僕がいないとお尻を拭けなくなるけど、いいんですかね」と疑問を呈した。ただ、実際この日も荷物検査の列に並ぶと「チケットがない」と大あわて。幸いパスポートに挟まっていたが…。五輪で頂点に立ち、学生ならではの最強の「備品管理長」となれるか。【阿部健吾】

 ◆ベイカー茉秋(ましゅう)1994年(平6)9月25日、東京都生まれ。千葉・東海大浦安高3年時に高校3冠、公式戦46戦連続一本勝ち。13年に東海大に進学し、15年世界選手権3位。178センチ、90キロ。父は米国人。