16歳のスーパースイマーが、メダルに迫った。女子100メートルバタフライの池江璃花子(ルネサンス亀戸)が日本新記録を連発し、3位で決勝に進出。8位以内の目標を達成し、一気にメダル圏内に入ってきた。驚異的なタイムを生み出す武器は、身長より16センチも長い186センチのリーチと、自宅リビングにある雲梯(うんてい)で強化された「つかむ力」。今日7日午後10時(日本時間8日午前10時)からの決勝で、メダル獲得を目指す。

 6日夜の準決勝、池江は世界の強豪に交じって驚異的な泳ぎを見せた。前半50メートルは6位で折り返したが、残り50メートルで急加速。最後はロンドン五輪でこの種目金メダルのボルマーを0秒01かわし、トップでゴールした。タイムは57秒05。リレーを含めてこの日3つ目の日本新に「(自己)ベストだったのでうれしい。ガッツポーズは(決勝進出に)3番以内を狙っていたけど、1番だったので出ました」と笑顔を見せた。

 昨年10月に加藤ゆかの日本記録を0秒21更新して以来、この種目で4回、他の種目を合わせて8回も日本新を出している。「泳ぐ度に日本新」の秘密は、プル(腕のかき)の強さ。体の成長、筋肉の強化が、日本新ラッシュを生んだ。

 水のつかみ方は、小学生の頃に培った。当時通った東京ドルフィンクラブの清水桂コーチ(41)から徹底して鍛えられた。入水から水をキャッチし、後方へと押し出す技術。コーチに腕を取られ、何度も繰り返された。「決して練習好きではなかったけれど、習得は早かった。他の選手が小学校2、3年でやることが、1年生でできていた」と同コーチは振り返った。

 「つかむ」感覚は、自宅のリビングに作られた雲梯で鍛えた。生まれてすぐからつかまり、立つことよりも早く両手でぶらさがった。日課として取り組むと、握力が増すとともに、物をつかむ感覚も養われた。そのセンスは、水泳のプルに生きた。

 中学入学時154センチだった身長は、3年間で16センチ伸びた。合わせてリーチも長くなった。身長プラス10センチあれば「かなり長い」と言えるが、170センチの池江のリーチは186センチ。これも雲梯効果なのかもしれない。腕が長ければ、それだけ遠くの水をつかむことができる。1かきの推進力は増して、ストロークも大きくなる。

 さらに、今年4月から本格的に始めた筋トレで、パワーもついた。リオ五輪代表スーツは4月に採寸したが、大会前には「パツンパツン」と池江。その間に体重も2キロ増えた。「決勝では56秒台を出したい」と話したが、そのタイムもすでに目の前にある。

 2日の選手村の入村式、揚がる日の丸を見て「私も東京五輪で揚げたい。今回メダルは無理だけど、リオの経験を生かしたい」と話した。しかし、その4日後に見えていなかったメダルが見えた。「決勝進出」の目標を、自己ベストを大きく更新して達成したのは92年バルセロナ五輪平泳ぎ金メダルの岩崎恭子と同じ。記録の伸びに追いつかなかった自分の想像力だが、決勝に残って初めて「メダルを狙いたい」と言った。勢いに乗る16歳の目標が、ようやく実力に追いついた。

 ◆池江璃花子(いけえ・りかこ)2000年(平12)7月4日、東京都生まれ。西小岩小-小岩四中-淑徳巣鴨高。昨夏の世界選手権で中学生として14年ぶりに代表入り。専門は自由形とバタフライ。五輪史上最多7種目に出場。170センチ、56キロ。

 ◆リーチの長さ

 欧米人に比べて一般的に手足が短い日本人のリーチは、身長と同じぐらいといわれる。プラス10センチあれば、長い方。ロンドン五輪レスリング金メダルの米満達弘は168センチの身長より18センチも長い186センチのリーチで頂点に立った。元プロボクサーの内藤大助は、プラス11センチのリーチでWBC世界フライ級王者に就いた。