ブンデスリーガ・マインツに移籍する東京FW武藤嘉紀(22)は、移籍前最後の清水戦で1アシスト。涙声でサポーターに別れを告げた。

 湧き上がる感情を、こみ上げる涙を、22歳の心では抑えきれなかった。東京での武藤のラストゲーム。壮行セレモニーでピッチ中央に立った第一声は「今日は泣かないと決めていたんですけど…」。4万人を超えるスタンドに囲まれ惜別の涙を流した。「最後は自分でゴールを決めたかったけど、チームメートに助けられて、無事勝利してドイツに渡ることができます」。チームメートの手によって胴上げで3度飛ぶと緊張の糸が切れ、泣きじゃくった。

 高ぶる気持ちを抑えつけるように国内最後のピッチに入った。鋭く切れ込もうとするが、させまいとする相手。それでも決して無謀な攻撃は仕掛けなかった。1点リードを追いつかれる展開。後半15分にFW前田のスルーパスに、左へ抜け出すと引き付けた清水DFは4人。空いた前田に横パスし、勝ち越し弾を演出した。「相手にケアされていて打ってもDFに当たっていた。前田さんが見えたので、いい形をつくれた」。派手さのあった通算23ゴールとともに、最後にアシストも残した。

 試合前、鳥肌が立つような光景が目の前に広がった。選手入場の際、コレオグラフィー(人文字)でスタンドに「14 MUTO」の文字が浮かび上がった。後押しを受け動き回ったが、終盤には両足がつって引きずりながら走り抜いた。「力みすぎて、後半にいろんなところがつってしまった。なんだかんだいって緊張していたんだな」。気合が突き動かしたラストマッチだった。

 振り返る暇もないような1年半を走り抜き、次なる舞台が待っている。プレミアリーグのチェルシーからオファーを受け現実味を帯びた海外挑戦。「本当にあっという間。この1年半があったから、今がある」。選んだ場所はドイツ・マインツ。最後の90分間は涙で幕を閉じ、武藤は世界へと向かう。【栗田成芳】