<高校サッカー静岡県大会:藤枝明誠2-0清水商>◇6日◇決勝◇エコパ

 初めて静岡の頂点に立った。高円宮杯全日本ユース8強の藤枝明誠が、静岡県総体覇者の清水商を破り、今季公式戦で負け越していた、因縁の相手にリベンジした。前半終盤にMF鈴木周太(3年)のボレーで先制、後半開始の39秒後にはMF原口祐次郎(2年)が追加点を挙げる圧勝だった。中学時代は無名選手が集まる雑草軍団が大輪の花を咲かせた。30日開幕の全国大会では1回戦(31日)で徳島県代表の徳島商と対戦する。

 藤枝明誠が「王国静岡」に、新たな歴史を刻んだ。新人戦こそ同時優勝を経験していたが、創部27年目で初の県制覇だ。試合終了の笛が響きわたると、田村和彦監督(48)は、両手で小さくガッツポーズを作った。イレブンは抱き合い、喜びを分かち合った。赴任して14年目。初の優勝インタビューで田村監督は「非常にいいゲームをしてくれた。目標を達成できて本当によかった」と喜びをかみしめた。

 全国への扉をこじ開けたのは、悔しさを一番知る鈴木周だった。一昨年の決勝では唯一出場。初優勝を逃した同じピッチで、先輩たちの涙を目の前で見た。前半34分、この日、相手守備陣の執拗(しつよう)なマークで「つぶれ役」となっていたFW安東大介(3年)がすき間を縫うようにオーバーヘッドパス。鈴木周は後方からの浮き球にダイレクトで右足を振り抜いた。ドライブ回転の軌道を描いたボールは2年分の思いを乗せ、ゴール右隅に突き刺さった。「まぐれっぽいけれど入ってよかった。はしゃぎすぎて、メダルが前歯に当たって、かけちゃいました」。ムードメーカーがこの日放った唯一のシュートが、最高のムードをもたらした。

 田村監督は自軍の選手たちを「無印良品」と呼ぶ。同校イレブンの中で、中学時代の県選抜経験者はいない。主軸のMF小川哲生主将(3年)、MF辻俊行(3年)も無名選手だった。それでも、個々の能力をカバーするために組織力を強化した。敵陣でのボール奪取からサイドに展開する攻撃的スタイルを作りあげた。その象徴が後半開始39秒に飛び出した。左クロスを右MF原口が押し込み2点目。理想の形から生まれた追加点は清水商に反撃ムードすら作らせなかった。原口は「今日の試合がベストゲームでした」と胸を張った。

 組織力を上げる努力はピッチ外にもあった。小川主将は「部員100人近くをまとめるには、私生活を見直そうと思った」という。新チームを結成すると朝練後に落ち葉の掃除、制服は校則通りに着こなすなど、全部員が「身だしなみ」から見つめ直した。効果はてきめんだった。新人戦4強、県総体も4強。10月には高円宮杯全日本ユースに出場して8強入り。雑草軍団が徐々に好結果を残していった。

 清水商には昨年の選手権2次リーグ、今季は新人戦と県総体の準決勝で敗れていたが、この試合はシュート数でも10本上回る完勝だ。MVPの小川主将は「静岡の復権を目指して頑張ります」と敗れた126校の思いを代弁した。田村監督は最低でも4強を目標に掲げた。選手権初陣まで24日。藤枝明誠イレブンは、まだまだ強くなる。【神谷亮磨】