プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月18日付紙面を振り返ります。2002年の1面(東京版)はフルハム稲本が日本人初のプレミアリーグデビューでした。

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<プレミアリーグ:フルハム4-1ボルトン>◇17日◇ロフタスロード◇観衆1万6388人

 待ちこがれた瞬間は後半24分だった。フルハムの本拠地ロフタスロード。稲本が、ついにプレミアリーグのピッチに立った。世界最古の伝統と格式を誇る緑の芝に日本人として初めて立った。地鳴りの歓声が背中を包む。日本から駆けつけた500人近いサポーターが歴史の目撃者だ。トップ下に入った。緊張感はなかった。

 存在感を見せた。試合を決定づける4点目の「起点」が、稲本だった。後半35分。左サイドにポジションを移し、ファーサイドに絶妙のパス。こぼれ出たボールを2列目から飛び出して来たMFレグビンスキーが決めた。ピッチの中央に歓喜の輪ができた。稲本もその輪に加わった。結果がすべての世界。開幕戦でフルハムの真の一員になった。

 ファーストタッチは慎重に出した中盤でのショートパス。同25分には、CKのキッカーを任された。ゴールに飛び込むMFボアモルテの頭にピンポイントで合わせる絶妙なボールを入れた。これで緊張がほぐれた。相手ボールを奪う得意の積極プレスも見せた。CKをさかいに、稲本らしい思い切りの良さが前面に出た。

 フルハムの愛称「ホワイツ」の名の通り、白いユニフォーム姿が似合っていた。わずか2カ月前、W杯4試合2得点で大ブレーク。日本のワンダーボーイと騒がれた。その勢いをフルハムの新背番号「6」は失っていなかった。試合中、稲本がボールを持つたびにスタジアム全体から「WE ARE JAPANESE」の大コールが起きていた。

 昨年7月、念願の海外移籍を実現した。名門アーセナルに移籍。即デビューの淡い期待を抱いていた。だが2冠を達成した王者に居場所などなかった。新天地に選んだのは同じロンドンに本拠を置くフルハム。他国に移籍すればプレミアで通用しなかった「事実」だけが残る。稲本は「この1年は試合出場が目標。1秒も時間を無駄にしたくない」と話していた。その切迫感が開幕前のインタートト杯での活躍。この日の結果につながった。

 イングランドでは技術はあるがフィジカルで劣る日本人は通用しないと言われた。だが、その体力こそが稲本の武器なのだ。G大阪ユース時代の96年8月、記念すべきプロデビューの相手もプレミアのニューカッスルとの親善試合だったのも、何かの運命だった。財政危機が叫ばれる欧州各国リーグを尻目に世界最高峰への道を駆け上がるプレミア。稲本が最激戦の環境でサクセスストーリーをスタートさせた。

※記録と表記は当時のもの