日本陸連の麻場一徳強化委員長(55)は21日、リオデジャネイロ五輪の女子マラソンの最終選考会、名古屋ウィメンズ(3月13日)にエントリーした福士加代子(33=ワコール)について「出ることは避けてもらいたい」と発言した。1月の大阪国際女子を制した福士は、日本陸連から「当確」が出ていないため出場する意向だが、麻場強化委員長は五輪でのメダル獲得を狙うためにも出場しないよう説得に乗り出す構え。その一方で「当確」は出せないと従来のスタンスを変えなかった。

 神戸市内で日本選手権20キロ競歩を視察した麻場強化委員長は、けがのリスクを承知の上で名古屋にエントリーした福士の強行出場について初めて口を開き、異例の要望を出した。

 「福士選手は強化委員会が求めた条件すべてを満たした素晴らしい、申し分のない走りでした。名古屋に出ることは避けてもらいたい。そのために我々ができることがあれば、やっていきたい。メダルを狙える水準に達している。五輪でメダルを狙う盤石のプロセスをしてもらいたい」

 強化トップが、一選手のレース予定に触れることは異例。しかも名古屋回避の勧めだった。「予定は白紙ですが」としながらも「何もしないでいるわけにはいかない」と、福士の説得に乗り出す構えまで見せた。

 選考要項の不備も認めた。福士は設定記録2時間22分30秒をクリアして優勝し現実的には五輪当確。だが設定記録突破者が複数出た場合、その中で優劣を決める規定がなかった。そのため、日本陸連は五輪当確を出すことができなかった。

 福士側のワコール永山監督は、名古屋で代表2人誕生のケースについて「名古屋の日本人2位というのは日本人1位に負けた選手。優勝した福士が選ばれず、名古屋の2位が選ばれるなんてことがあってはいけない」と問題提起してきた。麻場委員長は「その話の筋は理解できる」とした上で「日本のレベルを鑑みて、2時間22分30秒が設定された。複数の選手が超える設定で作っていなかった」と“ルール”に隙間が存在することを認めた。

 ただ福士側がこだわる「当確」については「その辺は難しい。選ぶとはいえない。今から名古屋を走る選手もいる。3つの大会が終わらないとそういうこと(当確)はできない」と従来のスタンスのまま。「最後の最後までできることをしたい」としたが、強化トップが出馬してもルール上は“空手形”になりかねない。【益田一弘】

 <女子マラソン五輪代表選考問題の流れ>

 ◆1月31日 大阪国際女子で福士が独走優勝。2時間22分17秒は同30秒の日本陸連設定記録を突破。

 ◆2月1日 福士陣営が名古屋ウィメンズ出場を検討。ワコール永山監督は「日本陸連から『(五輪)当確』という言葉がない」。

 ◆同6日 丸亀国際ハーフの前日イベントで、日本陸連の酒井強化副委員長が「出るなとは言えない。選考要項ではわずかに落選もあり得る」と発言。

 ◆同8日 永山監督が「(代表入りへ)生きるか死ぬかでやっている。我々は攻めるしかない」と合宿準備に入ったことを明かす。

 ◆同21日 日本陸連麻場強化委員長が福士陣営へ異例の要望。

 ◆同25日 名古屋ウィメンズエントリー選手発表。

 ◆3月13日 名古屋ウィメンズ号砲。

 ◆同17日 日本陸連理事会が開かれ、代表決定の予定。