<陸上:千葉国際クロスカントリー>◇13日◇千葉市・昭和の森◇女子一般8000メートルほか

 日本女子長距離界に、ロンドン五輪期待の大器が復活した。一般女子8000メートルで新谷仁美(22=豊田自動織機)が25分53秒で優勝した。指導する佐倉アスリートクラブ小出義雄監督が見守る中、スタートから独走。元マラソン世界記録保持者ロルーペが99年に記録した26分00秒を上回る好タイムで、来月スペインで行われる世界クロカン出場をほぼ確実にした。07年東京マラソンで初マラソン初優勝を飾り、「高橋尚子2世」と呼ばれた逸材が、スランプを乗り越えて第一線に戻ってきた。

 快晴の下、新谷がスタートで飛び出した。上下動しない安定感あるフォームから、大きな1歩を刻んでいく。いつも練習に使う走り慣れたコースも手伝い、完全なひとり旅だ。終盤に少しペースは落ちたが、それでも25分53秒でゴールに飛び込んだ。99年にロルーペが出した26分ジャストを上回り、2位以下に40秒差をつける圧勝劇だった。

 新谷は「(小出)監督から積極的に行け、と指示された。天候もよく、走りやすかった」とにっこり。独走について質問が及ぶと、「(区間賞の)高校駅伝以来ですかね。優勝も久しぶり」と、懐かしげな笑みを浮かべた。当時あまりの強さに「史上最強の高校ランナー」と呼ばれた大器が、ようやく春眠から目覚めた。

 07年2月の東京で初マラソン初優勝の偉業を達成したが、その後に伸び悩んだ。周囲の期待が高すぎるゆえ、思うような結果が伴わず、精神的に行き詰まった。昨年7月、強引に実家に帰った。携帯電話の電源を落とし、完全な引きこもり生活。40キロ台前半の体重は54キロまで増えた。それでも親友の声に背中を押され、折れた気持ちがよみがえった。「もう1度走りたい」。10月半ば、チームに戻った。

 新谷は「あの3カ月で初心に戻れた。飾らなくていい。気持ちが楽になった」と言う。そんな愛弟子に、小出監督は「いろんな経験しないとダメ。でもハトと一緒で帰ってくる。彼女はまだまだ伸びるし、マラソンで2時間16分台が出せる素材。将来、五輪で金メダルが取れる。やめなければ、ね」と笑い飛ばした。

 高橋が去り、故障の野口が立ち止まった今、日本の女子長距離界は「冬の時代」にある。そんな中、新谷の力強い走りは、春の息吹を感じさせるものだった。8月の世界選手権を目指す今季について「まずは5000メートルで勝負。マラソンは…まだ。でもオリンピックまでには決めたい」。陽光の中、吹っ切れた笑顔がまぶしかった。【佐藤隆志】