先日、「スポーツアナリティクスジャパン2017(SAJ2017)」に参加してきた。

 場所は東京・台場にある日本科学未来館。今回のテーマは「The Game Changer」を掲げていた。テクノロジーとアナリティクスが引き起こしつつあるスポーツ界の地殻変動を知るというものだった。

 初めから「とても未来性のあるテーマなのだろう」と私は感じた。

 イメージは学会のシステムと似ているいわゆるカンファレンスだ。大きな会場の中で数々のセッションがありパネリストとファシリテーターとがいて、議論を重ねる。アジェンダが各分野ごとに提供されているのだ。

 例えば「スポーツデータは、新たなファンを生み出せるのか」など、各テーマごとにその分野のトップランナーたちが登壇する。このセッションでは、参加型のアプリを開発している米国の会社が紹介されたりした。

開催された「スポーツアナリティクスジャパン2017」の様子
開催された「スポーツアナリティクスジャパン2017」の様子

■黒カビ戦法でじわじわ


 基調講演には「MLBAM(Major League Baseball Advanced Media)」のスペシャルアドバイザーであるジョー・インゼリロ氏を迎え、イベントの国際化も進みつつある。また「スポーツアナリティクス甲子園」と称した学生のデータ分析コンペも行われていた。学生たちが観戦者調査にフォーカスし、分析された様々な根拠や知見を発表していた。このセッションは、私の母校である早稲田大学の恩師の間野義之教授が審査員もされていて、とても興味深い内容だった。

 このSAJは14年にスポーツアナリストの可能性を切り拓くべく日本スポーツアナリスト協会(JSAA)が立ち上がったことがきっかけで同年から開催され、今回は第4回目になる。参加者も150人、300人、と増え続け、今年600人に参加者が増えた。このSAJの成長はJSAAのメンバーの素晴らしい努力の結晶であるし、日本スポーツアナリスト協会(JSAA)理事である小倉大地雄さんは「黒カビ戦法でスポーツ界を変える」とも話している。つまり、頭の中のアイデアをじわじわ浸透させていくということだ。

 小倉さんは09年から16年まで日本水泳連盟の広報を務めていた方で、私が現役選手時代に苦楽を共にした仲。とても優秀で、信頼できる素晴らしいパーソナリティの持ち主だった。14年に「日本スポーツアナリスト協会を作るんだ」と気持ちを高ぶらせ、そう話していたのが昨日のことのようだ。

 私自身はまだその時期、早稲田大学の大学院で修士課程だったため、毎日勉強に追われていたし、そこまで知識もなく「アナリティクスってなんだ!?」と思っていただけだった。しかし、私もスポーツマネジメントを学んで行く中で小倉さんが話していた、スポーツアナリティクスという概念やSAJ2017の開催意義など知れば知るほど「なんて国際的な思考で、こんなに素晴らしいコンテンツに成長していたなんて!」。その啓発される内容に感動した。

 そもそもアナリティクスとは、日本語にすると「分析論」だ。アナライズとかいうと分析とかになるだろうか。

 立ち上げのきっかけは、そもそも東京五輪開催が13年9月に決定したこと。20年までは日本スポーツ界にとっての黄金期だが、ここでピークアウトさせるわけにはいかない、という想いから始まった。

 そんな一つの想いが変化を生むのだ。

 オーストラリアのキャンベラにある「Australian Institute of Sports(AIS)」が日本の国立スポーツ科学センター(JISS)のモデルになったように、今回紹介しているSAJは07年より、米国ボストンで開催されているMIT(マサチューセッツ工科大学)の「Sloan Sports Analytics Conference(SSAC)」をヒントに設立したそうだ。元々このカンファレンスは、ビジネスの側面からスタートしている。ビジネスが先で、それに紐付いて、スポーツサイエンスやアナリティクスに意見を求めたりするようになった。

多くの人で埋まった会場
多くの人で埋まった会場

■多様な人材が理念を共有


 SAJの登壇者であった株式会社「スポーツマーケティングラボラトリー」のコンサルティング事業部・執行役員の石井宏司さんは、15年にSSACに参加した時に衝撃を受けたという。「参加する日本人が自分だけ」。この状況はさすがに「まずい」と感じたようだ。

 また、このSSACは参加している人が多様だということが特徴だ。つまり、異なった専門性を持つ人材が理念の共有をしながら議論している。

 このことは、今回「スポーツカンファレンスの未来」というセッションで議論された。つまり、今後のSAJがどこに進んで行きたいのかというセッションだ。その中で、4つのことがテーマとして挙げられていた。

 「inter-discipline 専門性を越えた恊働」

 小倉さんは、「村になると発展性がない」「魅力的なコンテンツに対して、リーチできる人が今のスポーツ界は限られている」「外の人の力を借りてどんどん成長していく」こんなことを話されていた。

 また、「hub 拠点・中枢」に関しては「場所の提供をし、草の根活動もするし、上からも下からも攻めていく」「場のオペレーティングシステムも必要だ」とも話されていた。

 「co-investment 共同投資」だ。

 つまり、スポーツ界も社会に投資しなければならないということだ。やって下さいというだけではなく、こちらから提供できるようにならなければならない。

 いろんなことを勉強して、ハードディスクに資料だけ溜まっていっても仕方ない。この勉強したことをもっと社会に投資していく。

 スポーツ庁が設立され、スポーツ基本法が改訂され、スポーツ基本計画の推進されている。様々な分野で、スポーツ産業への関心が高まっている「今」だからこそ必要な要素がSAJにはあった。

 「スポーツコンテンツが、様々な分野に入ってくればいい」

 そして最後に「The Game Changer」というSAJ2017のテーマを再提示した日本スポーツアナリスト協会理事、小倉さんの視点は既に未来にある。

 このスポーツアナリティクスジャパンの発展が、日本のスポーツ界の地殻変動の核になりつつあると感じるのは、私だけだろうか。

 これだけの素晴らしい能力が集結し、ポジティブなエネルギーで進んで行くしかない。こんなことを感じた時間だった。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)


データ分析について説明する登壇者
データ分析について説明する登壇者