夏の学生の大会が始まる。

今回はジュニアスイマーと大学生スイマーに、少しでも力になるような話をしたい。

先日、私の学校(日本体育大学)に萩野公介君が講演に来てくれた。彼とは、個人的に非常に仲の良い関係でもあり、引退する前は同じ環境(東洋大)で練習していた。

彼はリオデジャネイロオリンピックで金メダルをとった後、順風満帆な水泳人生ではなかったが、最後まで東京オリンピックを目指し、その道のりで感じた話を学生に話してくれた。

私自身も、彼の近くにいて変化を感じたのは、2019年の頃だ。

水泳を水泳だけとして捉えなくなった話し方に変わったのが印象に残っている。

人生の中の一部としての水泳、と、捉えているような話をするようになり、なぜ泳いでいるのか、何のために泳いでいるのか…そのようなことを聞くことが多くなった。

日本記録を出したい、オリンピックに出たい、オリンピックでメダルを取りたい、ありとあらゆる目標を達成してきた公介がぶち当たっていた壁だった。しかし、私はこの考えは誰でも経験する必要があると考えている。

自分が今、達成したい目標に対してなぜそれをしたいのか、自問自答する必要がある。そのなぜという理由がレース前、孤独に打ち勝つが原動力になるからだ。


「緊張は誰にでもある。悪いものではない」。公介はよくこの言葉を言っていた。

リオデジャネイロ五輪を含めて、世界一をとった彼のレース前の緊張は計り知れない。

しかしそんな緊張時に、なぜ水泳をしているのかが自身の中で明確になっていれば、レースの孤独に打ち勝つ確率が上がると思う。公介はそれを伝えたいのだと感じた。

今、自分の頑張ってきたものを100パーセント出そうとするスイマーたちの夏が始まるが、順位やタイムだけにこだわらず、そのレースの中に詰め込んだ思いを持って、プールで表現してほしい。

引退して思うのは、人に勝つことも大切だが、自分が自分にかけているプレッシャーに打ち勝つことはもっと大切ということ。

それができた時、自分が水泳をする意味と、自分の人生の一部の水泳がリンクして素晴らしい時間を過ごせると考える。

頑張れ学生たち!!

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「清水咲子のなんでもさっこ節」)

◆清水咲子(しみず・さきこ)1992年(平4)4月20日、栃木県生まれ。作新学院高-日体大-ミキハウス。本職は400メートル個人メドレー。14年日本選手権初優勝。16年リオデジャネイロ五輪は準決勝で日本新の4分34秒66をマーク。決勝に進出して8位入賞。17年世界選手権は5位に入った。21年4月の日本選手権をもって現役引退した。今後はトップ選手を育てる指導者を目指し、4月からは日体大大学院に進学。同時に水泳部競泳ブロック監督も務める。