女子史上初の五輪4連覇へ、58キロ級の伊調馨(31=ALSOK)が異次元の強さを見せた。1回戦から無失点で勝ち進んだ伊調は、決勝でもピーター・オリ(21=フィンランド)を圧倒。10-0のテクニカルフォールで3年連続10回目の優勝を決めた。五輪と合わせて13回目の頂点に立つとともに、来年のリオデジャネイロ五輪代表も内定。男女を通じて4人目、女子では史上初の五輪個人種目4連覇がかかるリオ五輪で、理想のレスリングの完成を目指す。

 いつものように派手なガッツポーズはない。コーチの肩車や、日の丸を掲げるパフォーマンスもない。淡々と、そして冷静に、試合を振り返り、これもいつものように言った。「やりたいレスリングができなかった。練習通りにいかなかった。25点です」。リオ五輪決定に「うれしいです」とは言ったが、はじける笑顔も、感激の涙もなかった。

 強さは圧倒的だった。初戦からタックルがズバズバ決まり、次々と得点を重ねた。準決勝では10-0のテクニカルフォールになっても攻撃の手を緩めず、フォールを奪った。決勝も10歳若い相手に完勝。それでも「意識したタックルが出せず、無意識で点を取ったのが悔しい」とまで言った。前日、16回目の世界一に涙を流した吉田とは、あまりに対照的な言動が続く。

 中京女大(現至学館大)の先輩と後輩、02年の世界選手権初出場初優勝も、04年からの五輪3連覇も一緒だった。来年のリオには、ともに女子初の五輪4連覇がかかる。日本協会専務理事でリオ対策プロジェクトの高田裕司委員長は「全競技を通じて、最も金メダルの可能性が高い。ケガさえなければ、いや多少ケガしていても大丈夫」と、伊調の金を確信して言った。

 日程的にはロンドン五輪の時と同じように伊調が1日早い。歴史に名を刻むのが自分だと知ると「ええ~っ、沙保里さんに先に行ってほしい」と言った。記録には無関心。注目されるのも面倒なのだ。「2人ともテレビ嫌いだったら、レスリングはここまで普及しなかった。沙保里さんが先の方がいいです」。めったに吉田について語らない伊調が、本心を打ち明けた。

 正反対の性格で、ライバルにも思われるが、伊調は2つ上の先輩を「いつも気にしてくれている。沙保里さんがいたから、私は練習だけに集中できた。沙保里さんがいなければ、今の私はない」とまで言った。吉田が積極的にテレビ出演やイベントをこなすのは、もともと好きだったから。さらに、レスリングの普及を考えるから。そして、後輩への配慮もあった。「そういうことは沙保里さんに任せて、私は現場で頑張ります」。同時代を走る看板レスラー2人は、心で結びついて五輪4連覇を目指す。【荻島弘一】

 ◆五輪4連覇 カール・ルイスら3人しか達成していない。いずれも男子で、女子は0。日本では3連覇も柔道男子60キロ級の野村忠宏と伊調、吉田の3人しかいない。レスリング界では男子グレコのカレリン(ロシア)、同フリーのメドベジ(ソ連)と伊調、吉田の3連覇が最高。