【ミルトンキーンズ(英国)2日=岡崎悠利】166センチの先駆者が8強への道を切り開く。ラグビーW杯イングランド大会で1次リーグB組の日本(世界ランキング12位)は今日3日、サモア(同11位)との第3戦を迎える。引き分け以下なら1次リーグ突破が厳しくなる大一番。世界最高峰リーグ「スーパーラグビー(SR)」初の日本人選手、SH田中史朗(30=パナソニック)は3戦連続の先発。負傷で十分な練習は積めていないが、世界が認めるパスさばきで日本初の1大会2勝に導く。

 小柄な体をむち打つ。サモア戦に向けて本格的な練習が再開された9月28日から試合2日前の1日まで、田中は公開された練習には姿を見せなかった。ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は「若干のケガを抱えている」と明かし、「試合には影響がないことを祈る」と心配する。十分な練習を積んでいるとは言いがたいが、それでも先発起用されるほど信頼されている。

 4年前のW杯では1分け3敗に終わり「何も残せなかった」と打ちひしがれた。翌12年、日本人として初めてスーパーラグビー(SR)に挑戦が決まった。所属のハイランダーズではニュージーランド代表のSHスミスが君臨。思うように出場できない中で、貴重な経験を積んできた。素早い球さばきと意表を突く突破が武器に、ジョーンズHCに「世界有数の攻撃的SH」と言わしめる存在になった。

 SRには、ニュージーランドに出発する1週間前に結婚式を挙げた妻智美さん(26)と二人三脚で挑戦してきた。お気に入りのチキン南蛮などの手料理やマッサージでサポートしてもらうだけでなく、ダッシュやウエートトレーニングに付き合ってもらうこともある。名門ヨネックスでもプレーした元バドミントン選手の智美さんは「2人とも負けたくないから、本気で競い合います」と笑う。田中は「1人ではしんどい時もある。リフレッシュにもなる」と感謝している。

 20日で2歳になる娘の愛真ちゃんも、もちろんパワーの源。イングランドに入ってからはテレビ電話で笑顔に癒やされている。「もっと頑張らないとと思いますね」と頬を緩めた。

 サモア戦で引き分け以下なら、目標の8強進出はかなり厳しくなる。パワーのある相手を速い連続攻撃で消耗させて、後半勝負に持ち込むため、田中の素早い球出しがポイントになる。「今大会で一番大事な試合。勝って弾みをつけて、最終戦の米国戦に臨みたい」と意気込んだ。

 ◆田中史朗(たなか・ふみあき)1985年(昭60)1月3日、京都市生まれ。京都・洛南中1年でラグビーを始める。伏見工高1年のとき花園優勝。京産大では06年度の大学選手権で9年ぶりの準決勝進出に貢献。パナソニックに進んで2年目の08年5月に代表デビューを果たした。14年には伝統の世界選抜チーム「バーバリアンズ」に選出された(日本人3人目)。166センチ、71キロ。キャップ数は51。