羽生結弦(21=ANA)がノーミスで滑り、自身が今季グランプリ(GP)ファイナルで出した歴代最高得点にあと0・39点と迫る、110・56点で首位発進した。本番前の公式練習では、他の選手に演技を邪魔され激高。「精神状態はぐちゃぐちゃ」の中で気持ちを切り替え、最高の演技に「よっしゃー。見たか!」と叫んだ。2季ぶり2度目の優勝がかかるフリーは、1日(日本時間2日)に行われる。

 本番の10時間前、羽生は激しい怒りの感情に襲われていた。公式練習でSPの曲に合わせ演技する最中、リンク中央付近でスピンをするデニス・テン(カザフスタン)が近づいても全くどかない。演技を妨げる行為に「それはねえだろ、お前!」。集中力を乱し、直後の3回転半ジャンプ(トリプルアクセル)で転倒すると、右拳で壁を「ドン」と、強くたたきつけた。

 その後も厳しい目つきでジャンプを繰り返した。演技している人を優先する暗黙のルールを守れなかったテンに非はある。昨季のGP中国杯の練習で閻涵(エン・カン=中国)と激突した経験があり、他人の動きに敏感になっていた部分もある。それでも、あまりに激高した姿に空気が凍り付いた。関係者も「あんなに怒るのを見たことはない」と驚きを隠さなかった。

 「精神状態はぐちゃぐちゃだった」。テンに対し気持ちが抑えられなかったことへの怒り。周囲の期待の声。プレッシャー。さまざまな感情が重なり、これまでにないほど心が乱れた。気持ちを立て直すため、周りの人の言葉を聞き、気持ちを落ち着かせた。オーサー・コーチからは「一呼吸して忘れてしまえ。次に進まなきゃ」と励まされた。

 たどり着いたのは調子にも結果にもこだわることなく「自分がどうやりたいか、それだけに集中」することだった。

 迎えた本番。目をつぶって深く呼吸し、静かに滑り出した。最初の4回転サルコーは「シャッ」と鋭く静かにエッジの音が聞こえる完璧な出来。続く4回転-3回転の連続技、トリプルアクセルの3つのジャンプも美しく決めた。ノーミスで終えると「よっしゃー。見たか!」と雄たけび。「成長したというか、ちょっと進めた感じ」。難しい状況を乗り越えた達成感があった。

 誰も踏み込んでいない2度目の110点超えにもかかわらず自己評価は「70点」と低い。ステップの要素が最高レベルに達しなかったことが不満だった。「これも、またうれしいところ。(フリーで)しっかりやっていく」。課題があるからこそ、ワクワクする。王者は歩みを止めない。【高場泉穂】