白血病から競技復帰を目指す競泳女子の池江璃花子(20=ルネサンス)が、世界中に祈りのメッセージを発信した。延期された東京五輪開幕1年前の23日、メイン会場の国立競技場に登場。真っ暗なスタジアムに純白の服で降り立った。ひと筋の光を浴びて、3月にギリシャで採火された聖火のランタンを掲げると照明が点灯。東京の夜空を照らした。新型コロナウイルスが世界を覆う中、4分10秒のスピーチで「1年後、オリンピックやパラリンピックができる世界になっていたら、どんなにすてきだろうと思います」。引き揚げる際には感極まって大粒の涙。一心に願いを込めた。

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<メッセージ全文>

池江璃花子です。

今日は、1人のアスリートとして、そして1人の人間として、少しお話しさせてください。

本当なら、明日の今ごろ、この国立競技場ではTOKYO 2020の開会式が華やかに行われているはずでした。

私も、この大会に出るのが夢でした。

オリンピックやパラリンピックはアスリートにとって、特別なものです。

その大きな目標が目の前から、突然消えてしまったことは、アスリートたちにとって、言葉にできないほどの喪失感だったと思います。

私も、白血病という大きな病気をしたから、よくわかります。

思っていた未来が、一夜にして、別世界のように変わる。それは、とてもキツい経験でした。

そんな中でも、救いになったのはお医者さん、看護婦さんなど、たくさんの医療従事者の方に、支えていただいたことです。

身近で見ていて、いかに大変なお仕事をされているのか、実感しました。

しかも今は、コロナという新たな敵とも戦っている。

本当に感謝しかありません。ありがとうございます。

2020年という、特別な年を経験したことで、スポーツが、決してアスリートだけでできるものではない、ということを学びました。

さまざまな人の支えの上に、スポーツは存在する。本当に、そう思います。

今から、1年後。

オリンピックやパラリンピックができる世界になっていたら、どんなにすてきだろうと思います。

今は、一喜一憂することも多い毎日ですが、一日でも早く、平和な日常が戻ってきてほしいと、心から願っています。

スポーツは、人に勇気や、絆をくれるものだと思います。

私も闘病中、仲間のアスリートの頑張りにたくさんの力をもらいました。今だって、そうです。

練習でみんなに追いつけない。悔しい。そういう思いも含めて、前に進む力になっています。

TOKYO 2020。

今日、ここから始まる1年を単なる1年の延期ではなく「プラス1」と考える。

それはとても、未来志向で前向きな考え方だと思いました。

もちろん、世の中がこんな大変な時期に、スポーツの話をすること自体、否定的な声をあることもよくわかります。

ただ、一方で思うのは、逆境からはい上がっていく時には、どうしても、希望の力が必要だということです。

希望が、遠くに輝いているからこそ、どんなにつらくても、前を向いて頑張れる。

私の場合、もう1度プールに戻りたい。その一心でつらい治療を乗り越えることができました。

世界中のアスリートと、アスリートから勇気をもらっているすべての人のために。

1年後の今日、この場所で、希望の炎が、輝いていてほしいと思います。

競泳選手

池江璃花子

本日はありがとうございました。

 

◆池江璃花子(いけえ・りかこ)2000年(平12)7月4日、東京都生まれ。15年世界選手権で中学生として14年ぶりに代表入り。得意は100メートルバタフライで自己ベスト56秒08。16年リオデジャネイロ五輪5位、18年パンパシフィック選手権で主要国際大会初優勝。同年ジャカルタ・アジア大会で日本勢最多6冠で大会MVP。昨年2月に白血病を公表し入院。同12月に退院。171センチ、60キロ。

◆池江の経過 19年2月8日、オーストラリア合宿中から緊急帰国、白血病と診断されて入院した。同12日にツイッターで病気を公表。同3月6日にはSNSで「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどいです」とつづった。同12月17日に10カ月の闘病生活をへて退院。今後の大目標を「2024年のパリ五輪出場、メダル獲得」とした。今年3月17日には406日ぶりのプールに入り「言葉に表せないぐらいうれしくて気持ちよくて幸せ」。6月16日には西崎勇氏をコーチに迎える新体制を発表。7月2日に練習を公開し、10月の日本学生選手権(東京辰巳国際水泳場)でのレース復帰を目標に掲げた。