水球男子日本代表「ポセイドンジャパン」が、“欧州組”で28年ぶりの五輪出場を目指す。優勝すればロンドン五輪出場が決まるアジア予選(24~27日、千葉・習志野)を控えた18日、都内で行われている直前合宿の練習を公開。五輪3連覇中のハンガリーのリーグ優勝チームに所属する長沼敦(29=エゲル)ら、欧州でプロ経験を積んだ選手が15人中9人を占める最強チームに仕上がった。84年ロサンゼルス大会以来の五輪出場へ、日本水泳連盟の06年からの「本場欧州強化策」が実りの時を迎える。

 決戦の大会の幕が開くまで残り6日。室温27度のプールで、筋骨隆々の男たちの勝負にかける思いは燃え上がっていた。マッチョな体で「ターミネーター」の異名を取る歌舞伎役者の市川海老蔵似の長沼が、水面から上半身を勢いよく跳び上がらせて、シュートを狙った。

 長沼

 海外経験がある選手が9人もいる。高いレベルで意思疎通ができる。世界を知らないで、世界と戦うことは不可能なんです。

 言葉に熱がこもった。現在、ただ1人海外でプロ生活を送る。00年シドニー五輪から3大会連続金メダルのハンガリーで、昨季優勝したエゲルに所属。06年にイタリアに渡り、07年にハンガリーへ。2部チームからはい上がり、昨季ついにビッグクラブに移籍し、レギュラー争いをしている。同国リーグでアジア人もただ1人。「サッカーで言えばバルセロナだし、日本人で言えばインテルの長友選手みたいな存在」と話す。

 海外に渡った06年は日本水球界にとっても転機だった。日本水連が海外挑戦する選手に補助金制度を設立。1カ月10万円で年4人まで。長沼も対象者だった。そこから一気に欧州で戦う選手が増えた。今回の日本代表メンバーには過去最多の海外経験者が9人。同水連の石井雄二郎事務局長(50)は「04年のアテネの時でも3、4人。こんなにいたことはない」と話す。

 99年にいち早く海外に渡った主将の青柳は「水球を知っている選手が多くなった」と分析する。日本では泳ぎの速さなどの目に見える評価が重視されてきたが、欧州で重視されるのは判断力。シュート、ブロックなどのタイミングが強さの源だった。本場でもまれ、判断力の高い選手がそろうと、おのずとチーム力は上がった。

 そもそも五輪とは縁深い競技だ。初参加は32年。4位に入っている。60年ローマ大会からは4大会連続出場も果たしている。だが、84年を最後に晴れ舞台から遠ざかった。大学を卒業しても、実業団などの受け皿がない。プレーをやめる選手が出る。チーム力は下がる。その長い悪循環を、「欧州組」で食い止める。

 4カ国で争う予選は中国、カザフスタンとの三つどもえになる。初めて勝利を挙げ、初めて予選リーグを突破して過去最高11位と躍進した昨年の世界選手権では、両国を上回る成績を残した。昨年12月12日から今月16日までオーストラリアで合宿も行い、約20試合を戦った。遠征中には中国に7年ぶりの勝利も挙げた。チャンスはある。

 長沼は「最高の準備ができた。期待は感じている」と表情を引き締めた。青柳は「多くの選手が引退するのをみてきた。我慢してきて今回の予選。これだけのチャンスは一生来ない。ここで勝てば、環境は変わる」と決意をみなぎらせた。【阿部健吾】

 ◆水球

 19世紀半ばイングランドが発祥。19世紀末には現在同様のルールが制定され、球技としてはサッカーとともに最も古く1900年大会から五輪に採用された。7人対7人で相手ゴールにより多く得点をしたチームが勝つ「プールで行うハンドボール」。身体接触も激しく「水中の格闘技」とも呼ばれる。1ピリオド8分を4ピリオドで争う。日本では日体大が有名で70~90年代の376連勝はギネス記録。

 ◆水球男子のロンドンへの道

 4カ国(日本、カザフスタン、中国、クウェート)が総当たり戦で対戦するアジア予選(24~27日)の1位が出場権を獲得する。日本、中国、カザフスタンの三つどもえの優勝争いが予想される。日本は04年以降の主要公式大会で中国に11連敗していたが、昨年12月の国際大会で8-6で勝利している。カザフスタンには昨年2戦2勝と相性は悪くない。同予選の2、3位は4月の世界最終予選(カナダ)に回る権利があるが、日本は勝機がないとみて不参加。五輪には12カ国が参加し、7月28日~8月12日まで行われる。