<ボクシング:全日本女子選手権兼ロンドン五輪予選日本代表派遣選手選考会>◇最終日◇11日◇広島市中区スポーツセンター◇ミドル級決勝

 しずちゃん、五輪へ前進だ!

 アマチュアボクシングのミドル級でロンドン五輪出場を目指すお笑いコンビ「南海キャンディーズ」のしずちゃんこと山崎静代(33=よしもとクリエイティブエージェンシー)が、日本一で五輪への道をつなげた。国内初公式戦となった決勝で、鈴木佐弥子(ワールドスポーツ)に26-11と大差判定勝ち。8強以上でロンドン五輪出場が内定する世界選手権(5月9~20日、中国・秦皇島)代表に選ばれた。競技に本格的に取り組んでわずか3年のしずちゃんが、さらに進化を遂げる。

 重い金メダルだった。しずちゃんが日本の関門を乗り越えた。待ちに待った国内初の公式試合。出場3人で決勝が初戦となった山崎は、鍛え抜いた拳で完勝した。涙を流し続けたリングで初の笑顔。重低音の声は少しだけ上ずっていた。

 山崎

 自分を信じて、練習通りにやるだけでした。ちゃんと勝って取れた1位のメダル。まずは第1歩を踏み出せた。毎回泣いていたのに、今日は初めて泣いてないですね。

 強かった。身長で14センチ低い鈴木は懐へ飛び込んできた。果敢に攻め込む相手に負けじと攻めて対抗。左腕で突進を止め、膝を曲げながらパンチを繰り出した。「重心を落として負けないようにした。下がったら相手のペースになるから」。攻撃こそ最大の防御だった。1回で5-3だったポイントは2回13-5、3回20-8、最後は15ポイント差の完勝。豊富なスタミナで、日本一にふさわしい姿だった。

 長い道のりだった。最初は人気芸人の遊びと思われた。ねたみの声は相次ぎ、嫌がらせもされた。重量級で国内には相手もいない。2年前には「道場破り」のように周囲に無断で男性選手に挑んで、むち打ちになった。昨夏のインドネシア遠征では過労とストレスで病院に搬送され、周囲に競技をやめるように説得された。「ボクシングできなくなるのは嫌」。号泣しながら訴えた。同9月に台湾で臨んだデビュー戦も台湾選手に判定負け。それでもくじけなかった。試合前は他選手の迷惑にならないよう、こっそりと会場の外で体を動かす。芸能の話題もできるだけ避けた。「本気度」を見せて周囲を納得させた。

 大会直前、梅津正彦トレーナー(43)の右腹に皮膚がんが見つかった。悪性黒色腫といわれるメラノーマ。医師は「余命1年」と8日の手術を決めたが、大会後の15日に延期した。「体調が悪い中ご指導してくれた。絶対に勝たなきゃいけないと思った」。現WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志らを教えてきた梅津トレーナーは「しずがアンカーかもしれませんけどね。ようやく伸びしろの入り口に差し掛かったかな」と目を細めた。

 山崎

 私のレベルじゃまだまだ世界で通用しない。日の丸をつけているのが恥ずかしくないプレーをしないと。いつか今日が弱かったな、と思えるぐらいのところに行きたいです。

 3月のアジア選手権(モンゴル)代表にも選ばれた。少ない相手を求めて全国行脚しながら、今後は海外合宿の計画もある。5月の世界選手権では、五輪切符獲得となるベスト8入りへ2~3勝が目安だ。週3本のレギュラー番組と舞台と同時に歩み続けるロンドンへの道。「今は山に登りたい」というボクサー山崎静代が、世界の高い頂に挑んでいる。【近間康隆】

 ◆山崎静代(やまさき・しずよ)

 1979年(昭54)2月4日、京都・福知山市生まれ。02年のABCお笑い新人グランプリに出場し、審査員特別賞を獲得。03年に山里亮太と「南海キャンディーズ」結成。ボクシングは07年に趣味で始め、08年のNHKドラマ「乙女のパンチ」出演のころから本格化。09年2月にC級ライセンス取得。10年全日本選手権ヘビー級は出場1人のために優勝扱い。得意は右ストレート。身長182センチ。血液型A。