<フィギュアスケート:全日本選手権>◇21日◇札幌・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ

 初優勝を狙う羽生結弦(18=東北高)が大会史上最高点の97・68点でトップに立った。国際スケート連盟(ISU)非公認の「参考記録」ながら、今季のNHK杯で自らマークした世界最高95・32点を上回り、昨年高橋大輔(26)が出した96・05点も更新した。

 フィニッシュポーズで右拳を突きあげながら、時が止まったような感覚の中で、羽生は思った。「顔を作れなかったな」「雰囲気を作れなかったな」。頭に浮かぶのは反省の言葉。スタンディングオベーションの熱狂とは裏腹に「何が何だか分からなかった」。だから、18歳は得点に驚いた。そして、素直に思い直した。「ビックリしましたけど、自分の記録を抜かせてうれしい!」。日本の頂点を決める戦いで、国内史上最高点の誉れを味わうことにした。

 前夜から緊張が襲った。抽選で決まったSP最終滑走は、4位だった昨年と同じだった。1年前は冒頭のトリプルアクセルを失敗。「去年はミスしたんだよな」。悪いイメージがぬぐえない。極度に体は硬くなり、直前の6分間練習もミスが目立った。足が震えた。だからリラックスさせようとするオーサー・コーチの言葉を信じるしかなかった。

 ブルース曲「パリの散歩道」が鳴り始めた。冒頭の4回転ジャンプを鮮やかに舞い降りた。緊張は力を奪わなかった。世界歴代最高点を記録したGPシリーズのスケートアメリカ、NHK杯より、自身の手応えは小さい。だが、練習で積み重ねた動きは、しっかりと観客、ジャッジを魅了した。柔らかに鋭いステップに自然と手拍子が起こった。

 世界ランク上位10人中5人を日本男子が占める中、自分も世界で成績を残してきた。4度目の出場の今年は「違う印象で臨まないと。優勝争いに絡まないと」とひそかに誓っていた。2週前のGPファイナル後には体調不良で嘔吐(おうと)。状態は万全ではなかったが、緊張にも逆境にも打ち勝った。

 並みいる先輩を従えて頂点が見えてきたが、逆に気は引き締まる。

 羽生

 やはり、高橋先輩、小塚先輩、織田先輩がいたからこそ僕らはいる。まだまだ追いつけてない部分はたくさんある。先輩のように「強い日本」になっていきたい。

 感謝と謙虚と決意が共存する言葉で、翌日を見た。【阿部健吾】