<柔道:講道館杯全日本体重別選手権>◇第1日◇8日◇千葉ポートアリーナ

 「東京の星」が16年リオデジャネイロ五輪の代表選考レースに名乗りを上げた。男子66キロ級で、兵庫・神港学園高2年の阿部一二三(17)が、男子の史上最年少となる17歳2カ月で初優勝した。2年後の五輪代表争いが本格的に開始された今大会。20年東京五輪で活躍が期待される逸材が、大きな存在感を放った。

 阿部は当たっても砕けなかった。「組む柔道をしたら負ける。思い切ってガツガツ行くしかない」。まだ技術は未熟だ。ただ、勢いはある。謙虚に、大胆に、前に出続けた。「豪快に一本を取る」。先輩たちに玉砕覚悟で猛進し、砕けたのは相手だった。

 3回戦が鍵だった。13年世界選手権銅メダルの福岡に挑んだ。試合巧者に組み手争いは避けた。冒頭から一本を狙い、果敢に懐に飛び込んだ。1分41秒、相手が面食らって強引にかけた背負い投げを浮き落としで返して一本勝ち。「流れをつかんだ」と、5試合を勝ち抜き頂点に立った。

 悔しさを糧にした。8月のユース五輪、高校総体、9月の全日本ジュニアと連戦連勝。秒殺続きの超高校級の試合ぶりに、20年東京五輪へ「日本の宝」と称された。だが、先月の世界ジュニア選手権決勝で、技ありと有効を奪ってからの逆転負け。油断で生じた隙に、「いまのままではあかん」と畳脇で大粒の涙を流した。この日、決勝でも技ありと有効でリード。「絶対に負けたらあかん」。今度は最後まで前に出続けた。

 この優勝で12月の国際大会グランドスラム東京の出場権を得た。それは同時に世界選手権3連覇中の海老沼への挑戦状。「どこまで自分の柔道が通じるのか楽しみ」と胸は躍った。【阿部健吾】

 ◆阿部一二三(あべ・ひふみ)1997年(平9)8月9日、兵庫県生まれ。6歳から柔道を始める。神戸生田中では11年(55キロ級)12年(60キロ級)の2階級制覇。際立つ体幹の強さは、消防士の父浩二さんが筋骨隆々の仲間と、小学生だった息子用に作った特別メニューのおかげ。「一二三」の由来は「1歩ずつ」。得意技は大腰、背負い投げ。右組み。憧れの選手は野村忠宏。家族は両親と兄と妹。168センチ。

 ◆柔道講道館杯の最年少優勝

 高2の阿部一二三の優勝は男子の最年少記録。高3では、98年大会73キロ級の高松正裕と100キロ級の鈴木桂治、04年大会100キロ級の石井慧がおり、高校生では4人目の優勝。女子の最年少Vは05年大会48キロ級を高1で制した中村美里ら。

 ◆柔道のリオデジャネイロ五輪代表の選考

 男女とも国内外大会の2年間の成績をポイント換算し、参考材料とする。国際大会派遣選手を決める今大会は、2年後へ向けた第1関門。今後は各階級の候補選手は4人ほどに絞られるため、今大会で上位進出を逃した選手は五輪出場が厳しくなった。なお、世界選手権代表とアジア大会優勝選手の今大会出場は免除。