この日は最初に捕手陣のミットを見せてもらった。網の部分にある横のヒモがみんな広がっていて「なぜ、こういう形をしているのか?」と聞いた時に、答えが出ない選手がほとんどだった。

広がっていることが悪いわけではない。例えば、ポケットで球を捕って右手に渡す時に網が広がっている方が握り替えがしやすい、とか答えがあればいい。

私自身は網にボールが通る時に遊んでしまう感じになってジャックルするのが嫌だったので、ヒモを締めていた。ミットが小さいと思われたようだが、大きさはそんなに変わらず、締めているから小さく感じる。でも、みんなが同じミットである必要はない。自分に合ったミットを探して作り上げることがプロとして必要だと話させてもらった。

それはBIGBOSSも同じ思いだった。彼も外野用のグラブにはこだわりがあったという。普通は1つしかないポケットを、土手、真ん中、先と3つも作っていたと聞いた。新しいグラブが来て3つ作ろうにもなかなかできなかったので、結局同じグラブを17年間、使い続けた。プロとしてのこだわりが道具には必要だということは、共感してもらえた。

練習後に対談したが、実はお互いに反対側からグラウンドを俯瞰(ふかん)していたんだと思った。新庄監督は現役時代にセンターを守っていて、中堅から全体を見渡しながら捕手がどうリードして打者を抑えているのかを観察していたそうだ。捕手は全体を見ることができるが、正反対から全体を見渡せる唯一のポジションがセンターだと言われて「なるほどな」と。だから練習試合でも、よく知る視点のバックスクリーンから試合を見ることがあるのだろう。

「レギュラーはいない。1年間かけて選手を見極めたい。全員にチャンスがある」と話していた。「選手への厳しいメッセージだね」と返したら「いや、谷繁さん。本音です。パッと見てレギュラーだと思った選手がいない。近藤は確かにいい打者。でも(近年のプロ野球を見ていなかったから)去年の近藤しか見ていない。去年だけならレギュラーに届いていない」と答えていた。監督に就任し、斬新で自由な野球をしているような印象もある。でも自分たちがしてきた野球の良かったところを、今風にアレンジして表現しようとしていると感じた。(日刊スポーツ評論家)

ブルペンで加藤の球を受ける谷繁氏(手前)を見る新庄監督(後方左)(撮影・鈴木みどり)
ブルペンで加藤の球を受ける谷繁氏(手前)を見る新庄監督(後方左)(撮影・鈴木みどり)
笑顔でプロテクターをつける谷繁氏(撮影・佐藤翔太)
笑顔でプロテクターをつける谷繁氏(撮影・佐藤翔太)