元ゴルフ担当なので、どうしても“ギア”が気になる。
西武の選手が自主トレを行う、新年の西武第2球場。練習を終えた中村剛也内野手(33)と、バットについて話をする機会があった。
重さを聞くと「940です。多少重めですね」と言う。940グラムは、多少どころか、日本球界でも最重量級に当たる。「あれ、そうですかね」といたずらっぽく笑う。
ゴルフには、振れる範囲でできるだけ重いクラブを選んだ方が、スイングが安定するという考え方がある。野球はどうか。歴代3位の本塁打王6回の飛ばし屋は、重いバットにどんなメリットを感じているのか。
「まあ単純に、質量が多い分だけ力学的なエネルギーは大きくなりますよね。それから重くて手先で扱いきれない分、自然と下半身を中心に、身体全体を使ってスイングできるようになります」
スラスラと、理路整然と答える。問い掛けられることに慣れているのか。もしくは自分に問い掛け続けてきたのか。
いずれにしても、ひと息ついて缶コーヒーのプルトップを上げた中村は「もう1つ。重いバットの方が、いいバットが多いんですよね」と付け加えた。
「同じ長さ、太さでつくるとなれば、軽いバットは軽い材料でつくるしかない。逆に重いものほど、しっかりと目の詰まっている材料を使える。打てばはっきりと感触が違います」
木材が含む水分量も大事だと、中村は言う。空気が乾燥する冬、放置すればバットは乾燥する。数グラム単位の話だが「持てば分かります」と事もなげに断言する。「乾けばやっぱりスカスカな感じになる。しなり感がなくなりますね」。
だから乗用車で練習場から帰宅すれば、中村はバットを自室に持ち込む。「適当に置いておくだけです」と笑うが、室内は体調管理のためにも湿度が保たれている。乾いた外気の中で失った水分を、バットは自然と取り戻すのだという。
深夜。明かりが落とされた部屋の片隅で、バットは静かに息づき、艶をよみがえらせる。極上の1本が仕込まれた、ワインセラーが思い浮かんだ。
◇ ◇
何げなく問い掛けたつもりが、話は思いがけなく長くなった。
プロゴルファー池田勇太が、重さ調整用のなまり0・5グラム分をクラブヘッドからはがし忘れていたことに、1スイングで「なんか重いな」と気づいたことを思い出す。
サッカーの中村俊輔も、試合会場に合わせて、10種類のスパイクを履き分けていた。そして歴史に残るホームランバッター中村は、バットの材質の密度、保湿量の変化まで感じ取る。
一流どころは、そこまで競技を突き詰める。感覚が研ぎ澄まされている。スポーツで「食っている」プロアスリートの真骨頂だと思う。
◇ ◇
右ひざ痛に苦しんだ昨季、中村は軽めのバットを試したこともあった。しかし結局、元の重めのバットに戻した。
ケガが癒えたオフ、中村は練習場に毎日のように現れ、940グラムのバットを軽々と振り回している。1時間以上もマシン打撃を続けては「バッティングハイになった」と笑う。
規定打席に達したシーズンはすべて、リーグ本塁打王に輝いてきた。重い“愛刀”を鋭く振るう姿が、逆襲のシーズンを予感させる。【塩畑大輔】