「オレ、泣いてなかったよね!?」。日本ハム栗山英樹監督(56)は前のめりになって、涙の有無を確かめてきた。日本ハムは11月10日、記者会見を開き大谷翔平投手(23)のポスティングシステムによるメジャー移籍を容認。栗山監督も同席し、思いを語っていた。その翌日。「泣いていないよ、ね」と何度も念を押された。少し不自然なほどに。

 情に厚く、シーズン中には何度も目頭を熱くさせていた姿を見てきた。大谷のメジャー挑戦へ背中を押したあの日、涙を見せてもおかしくなかったが、テレビ画面を通して見た指揮官は、口を真一文字に結び「涙をこらえる」ような表情が際だっていた。「悲しくはないんだよ。いつか来る日は決まっていたんだから」。迫り来る1日に向けて、感情をこらえながら心を整理していたのだろう。

 大谷のメジャー正式表明を前に、栗山監督の父親の顔を見た。沖縄・国頭での秋季キャンプ中、海辺を歩きながら二人三脚で歩んできた道のりの一端を話してくれることが多かった。「1番投手」で起用した時のやりとりや昨季、日本一に輝いた直後の会話…。「翔平は、いつも同じなんだよ。淡々としている。日本一になった後は『ありがとうございます』もなかったよ。それを言うのも、おかしいけどね」。

 そして「親子なのかなあ。オレには子供はいないけど、周りにはよく言われるから」と父親の顔をのぞかせていた。幸福そうで、どこか心配そうな顔だった。いつも選手やチームを第一に考え、自らのことは無関心なほどに頭を悩ませる栗山監督。時には、感情の赴くまま、涙を流してほしい。【日本ハム担当 田中彩友美】