日本ハム栗山監督は、就任時から毎年、選手、スタッフらにオリジナルデザインのTシャツをプレゼントしてきた。絵柄にはその年その年で、選手へ向けた「メッセージ」が込められる。2014年のTシャツは、野球場と野球少年があしらわれたものだった。同監督は常々、言う。「少年時代、誰もが日が暮れるまで野球で遊んでいた。学校から帰ったら、カバンを置いて、すぐに野球をしに行っていた。原点だよね」。プロ野球選手になるほどの才能の持ち主なのだから、皆、当時は野球が楽しくて楽しくて仕方なかったはずだ。それが、野球を職業とし、壁にぶち当たり、悩みが多くなると、純粋にプレーを楽しむことができなくなる。それが、パフォーマンス発揮の邪魔をすると考えられる。

 だがメジャー初登板初勝利を挙げたエンゼルス大谷翔平は、まさに野球少年だった。「ただ、ただ、すごく楽しくて。最初に野球を始めて、グラウンドに行く時のような気持ちで行けたのですごく楽しかったです」。あこがれていた夢舞台。球場の雰囲気、相手打者との対戦、一緒に戦う仲間たち。ひとつひとつが、心を揺すったのだろう。

 さらに2日後には本拠地初打席での初本塁打。私は正直、初勝利よりも初本塁打の方が先に来るだろうと思っていた口だから、ホームラン自体には驚きはない。だが地元ファンの前に初登場した打席での感動的な放物線。そしてカーテンコール。野球少年は野球少年のまま、夢に見ていたあの光景にす~っと溶け込んだ。

 その感動は、「慣れ」によって薄れていく可能性がある。だが大谷には、すごく近くに最高のお手本がいる。チームメートのマイク・トラウトだ。MVPを2度獲得し、今季の年俸はメジャー最高額の3410万ドル(約37億円)といわれる。地位も、そしてお金も手に入れたスーパースターだが、ナイター翌日のデーゲームでも、移動を挟んだゲームでも、全体練習の前に、バットを持ってグラウンドや打撃ケージに姿を見せる。そしていつも、チームメートとじゃれ合い、笑顔でボールを追っている。

 モチベーションは一体、どこにあるのか。

 トラウトは「可能な限りうまくなって、100%全力でプレーする、そういう選手になりたい。1番の選手を目指しているんだ」と言った。自分で限界をつくらず、現状に安心せず、もっとうまくなりたいと純粋に考える。

 あれ? これって、何度も聞いたことがあるぞ、と思う。

 大谷も日本ハム時代から、「もっとうまくなりたい」「昨日より今日、今日より明日、うまくなっていたい」と話してきた。メジャー挑戦を表明した記者会見でも「世界一の選手になりたい」と、目標について答えた。先発ローテの一角・シューメーカーは、大谷を「トラウトに似ている」と言った。スタッフ内でも「2人は雰囲気が似ている」という声が聞こえる。きっとお互いに刺激を受けながら、さらにレベルを高めていくのではないだろうか。

 大谷はメジャーキャンプ初日、なぜエンゼルスを選んだかを聞かれて「キャンプを見ていてもらえれば分かるのではないかな」とコメントした。正直、キャンプが終わり、シーズンが始まったいまでも、私はその答えがわからない。だがトラウトの存在は、今後の大谷の成長にとって、欠かせないものになるはず。「なぜ、エンゼルスか」はわからないが、エンゼルスという選択が正しかったことだけは、わかる。【MLB担当 本間翼】