「ちょっと、見て下さいよ」。4月14日の阪神ヤクルト戦。肌寒い甲子園のバックネット裏記者席で、隣に座っていた阪神担当の池本記者がグラウンドの一角を指さした。視線の先を追うと、中堅の位置に向かうヤクルト青木宣親外野手の姿が。「打席では半袖でしたよね。今は長袖になってますよ。合間に、急いで着替えたんですかね」と、鋭い観察眼を発揮してきた。

 そこから2人で「袖の長さチェック」を開始した。すると、確かに「守備時=長袖」「打撃時=半袖」の法則が成立していた。ヤクルト担当なのにまったく気付いていなかった自分を恥じつつ、池本記者から得た“早着替え”の理由を知りたくなった。

 数日後、神宮で青木と話をする機会に恵まれた。このチャンスを逃すと、後輩池本記者への面目が立たない。思い切って、話題を振った。「早着替え?」。青木は声のトーンを上げつつも、笑顔で真相を明かしてくれた。「着替えてはいないですよ。そんな時間は、さすがにないですね。あの時は袖をまくっていただけなんです」。だが、“早着替え”ならぬ“早袖まくり”には、青木なりの理由があった。「打席の時は一瞬なので(袖が)邪魔になるほどではないけど、ない方がいいかなと。守備の時は(右腕を)冷やさないようにというのはあります」。

 春先の屋外ナイターは、グラウンドレベルでは気温がグッと下がる時がある。肩が冷えていては、とっさの送球に影響がでるだけでなく、故障のリスクにもつながってくる。かといって、試合時間の短縮を掲げる現在、着替えでゲームの進行を滞らせるわけにはいかない。でも、打席では袖が気になることは避けたい。青木の“早袖まくり”は、そのすべてを補える最善の方法といえた。

 米大リーグから7年ぶりにヤクルトに復帰するやいなや、4番や1番という打順で主軸を務めつつ、後輩への助言も惜しまない。フォアザチームを体現しながら、自身のコンディション維持にもできる限りの工夫を凝らしている。「打って、投げて、走る」につながる準備がいかに大切かを、あらためて思い知らされた。たかが「袖の長さ」と、侮るなかれ。【ヤクルト担当 浜本卓也】