気付けば、無観客の五輪観戦にも慣れた自分がいる。これが有観客の大歓声があれば、日本代表のメダルラッシュもまた違う数字が並んでいたかもしれない、とも思う。それはプロ野球のペナントレースを見ていても感じるところがある。前半戦、広島の本拠地マツダスタジアムは50%の観客が入った。それでも、恵まれている環境かもしれない。ただ、あの超満員で真っ赤に染まった熱気と大歓声があれば25勝27敗の今季の本拠地戦績もちょっとは変わっていたかもしれないと感じる。昨季終了時に選手たちが「あらためてファンの声援が力になっていたことを知った」と口をそろえていたように、ファンの存在は選手を突き動かす。

五輪期間中、プロ野球は西日本の球場を主にエキシビションマッチが行われている。広島の全9試合はすべて本拠地試合。1日のロッテ戦を除き、5000人前後の観客を入れている。実はすべて、無料だという。

新型コロナウイルス感染拡大によって、多くの業界、多くの企業が大打撃を受けたように、広島球団も昨年は46年ぶりの赤字となった。それだけにエキシビションマッチを有料とし、補てんに充てることもできただろう。運営による経費がかかるため、試合をすればするほど球団の出費は増える。それでも無料化に踏み切った。「何より球場に来て、野球を見る習慣、日常がなくなることが一番怖い」。球団幹部は大局的な視点で判断した。入場制限があるため、無料開放にはできない。準備時間が短い中でさまざまな方法が議論された結果、年間指定席購入者とファンクラブに割り振られたという。

広島に来て10年以上、カープがこの街の一部となっていることを肌で感じてきた。テレビ各局の夕方のニュースではカープのコーナーが設けられ、週末には地上波で試合が放送される。テレビCMに出演する選手もいれば、路面電車内では選手の声でアナウンスされる。コンビニでカープグッズを買うことだってできる。幅広い世代がにぎわうマツダスタジアムは、ひとつのプレイスポットのようでもある。

ただ、昨年から我々の日常は大きく変わった。数年前の当たり前が当たり前ではなくなっている。アフターコロナにどうなっているのか、誰にも分からない。もしかしたら満員のマツダスタジアムが当たり前ではなくなっているかもしれない。広島の街に根付いたカープという文化、満員のマツダスタジアム、そして熱いファンは無形の財産。広島球団は今だけではなく、未来も見据えている。【広島担当=前原淳】