8月下旬の巨人のファーム練習日、川崎市のジャイアンツ球場の外野を1人黙々と走る選手の姿が目に映った。内野のスタンド席からは遠く、誰なのかすぐにはわからなかったが、ふと、タイムスリップしたかのような感覚に陥った。

その場所はかつて、リハビリやファーム調整中に歴代の先輩投手が踏みしめた芝だった。エースも例外ではなく、内海哲也(現西武)、菅野智之もまた、全体練習開始前の早朝に1人グラウンドに入って、黙々と汗を流した。

当時、直接話を聞いた内海や菅野は、練習前の早朝から走る意図に自らの調整はもちろん、若手へのメッセージも込めた。その日1日の体の準備をランニングから始め、1人の空間で心と頭を整理。走ることの重要性というよりは野球人として、準備の大切さを背中で伝えた。

そんなことを思い出しながら見ていると、走り終えて、クラブハウスに戻る姿が見えた。プロ2年目の井上温大投手(20)だった。今季はイースタン・リーグで開幕投手を務め、飛躍が期待されたが、5月に左肘頭スクリュー挿入術を受け、現在は復帰に向け、懸命にリハビリに励む。

コロナ禍での取材で、直接本人に走った意図を聞けなかったが、脈々と受け継がれる「巨人の伝統」を目にし、常勝軍団であり続ける理由を肌で感じるとともに、井上の復活を心から願った。【遊軍=久保賢吾】