壮絶なデッドヒートが忘れられない。7年前の14年10月2日。勝てば優勝の可能性が残されたソフトバンク戦の延長10回。大事なマウンドに、オリックス比嘉幹貴投手(38)が7番手で送り出された。

熱戦の末、松田にサヨナラ打を浴びた。ナインはグラウンドに膝を突き、涙した。あれから7年がたった。38歳になった比嘉は「あえては見ないですけど…」とひと呼吸を置いて、「YouTubeでパ・リーグTVを見ていたら、たまに目に飛び込んできますね」と続けた。

運命の1球…。プロの世界に“タラレバ”はないが尋ねてみた。「もちろん、難しいです。なんていうかな…。あの場面でいうと、すごい甘い球がファウルになって、良いところに決まったのにバチンと(サヨナラを)打たれた。だから、読まれていたんだなと」。

数秒間、沈黙すると「あそこでスライダーじゃなくて真っすぐだったら…とか、フォークだったら、カーブだったら、もう少し時間かけていたらとか。答えがないので、めちゃくちゃ考えますよね」と苦笑いした。「(松田は)もう何年も対戦している相手。あっちも腹くくって待っているでしょう。その日の3打席の内容とか僕との対戦とか兼ね合いがある。正解はないんです」。考え抜いても結論は出なかった。

そして今、再びチームは優勝争い真っ最中。歓喜の瞬間を取り戻すときがきた。「今年、みんなよく打つなあって思いながら、ブルペンにいます」と38歳の変則リリーバーは笑う。「逆転しそうな雰囲気あるじゃないですか? 負けていても最少失点で頑張ろうと思えますよね」。

勝負の10月に入った。「こういう緊張感で野球ができる。みんな、しんどいよりも楽しいの方が勝っていると思うんです」。14年の雪辱か-。そう問うと、答えは違った。「あれ(14年)を知っている選手は、本当に少ないんで。今のチームは『あのときの』とか、そんなこと思っていない。目の前に必死。絶対、優勝したい! そういう感じですね」。7年前に刻まれた比嘉の記憶は、すでに塗り替えられていた。【オリックス担当=真柴健】

松田にサヨナラ打を浴びる比嘉(2014年10月2日撮影)
松田にサヨナラ打を浴びる比嘉(2014年10月2日撮影)