現場取材歴が長いベテラン記者が、さまざまな角度から「サイン盗み」を考察する。

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プロ野球界に「サイン盗み」がなくならない大きな理由のひとつに、外国人選手の存在が挙げられる。

日本に来る外国人選手の大半は、メジャーで通用しなかった選手。今でこそ日本をステップにして、再びメジャーを目指す選手もいるが、ほとんどは大金を稼ぐラストチャンスを求めている。崖っぷちに追い込まれた選手は厄介で、自分が成功するためには何でもやる傾向が強い。

「どうせクビになるのなら…」という思考が、どこに行き着くかは簡単に想像できるだろう。「サイン盗み」が簡単に摘発されないのも知っている。大きなペナルティーも、選手に実行された例はない。悪いことであっても、刑法に抵触する行為でもなく、バレてから帰国しても、周囲からとやかく言われる心配もない。そうした環境が“反則行為”を実行しやすくする。「旅の恥はかき捨てろ」とばかりに実行に移す。

何年か前の日本シリーズでも「サイン盗み」をしているチームがあった。日本シリーズはテレビカメラの台数も多く、普段は映らない瞬間でも映る。打者の不自然な視線の動きや、走者やベースコーチの不自然な動きは、随所に見えた。

きちっとした証拠はなかったが、後に移籍した外国人選手は「サイン盗み」を自供。「対戦するときは気を付けろ」と、自軍を気遣っての告白だが、笑うに笑えない話だ。すぐに移籍したり、引退すれば母国に帰る選手は、口が軽い。「サイン盗み」のうわさがあるチームを探ってみると、多くの場合、外国人選手が“言い出しっぺ”になっている。

海外旅行に行くと「置引に気を付けろ」と注意されるだろう。海外では「盗まれた方が悪い」と聞く人も多いのではないか。その論理は、そのまま野球界に当てはまる。メジャーでは、南米の選手同士で守備側の選手が敵のチームの打者にサインを送るケースまであるという。日本では考えられない話だろう。

ただしメジャーでは、やられた側の仕返しは強烈だ。証拠がなくても疑わしい行為があれば報復死球は当たり前。盗む方もそれなりの覚悟が必要になる。温和な日本人は、そこまでの報復はほとんどない。まさに「やり得」で、外国人選手からしてみたら「やらない方が損」という感覚になっても仕方がない。

国際大会でも「サイン盗み」は当然のように行われている。侍ジャパンでも、捕手がコースに構えるのを遅くしたり、サインを頻繁に変えたりして対応している。野球の発祥の地から伝わる「サイン盗み」を、日本だけで撲滅しようとしても難しい。

ペナルティーが科せられている現在のプロ野球では、監督やコーチに内緒で、選手間で打ち合わせて「盗む」ケースも多い。「サイン盗み」を持ち掛けられても、日本人のモラルに基づき、誇りをもって断ってほしいとしか言えない。(つづく)【小島信行】