<ロッテ3-2日本ハム>◇2004年(平16)9月11日◇千葉マリン

西日が右翼席の後方、東京湾に沈んでいく。少し肌寒い秋の夕暮れ。定位置のBクラスが確定しているチームは消化試合の真っ最中。目標を失った選手たちのプレーを、まばらな観客がぼんやり眺めている。記者として、ファンとして、時に熱く、時に距離を感じながら通ってきたが、シーズン終盤の千葉マリンには、いつも哀愁が漂っていた。

サヨナラ本塁打を放ち、福浦和也(右から2人目)、藤田宗一(左)らに祝福される垣内
サヨナラ本塁打を放ち、福浦和也(右から2人目)、藤田宗一(左)らに祝福される垣内


だが、04年9月11日、ロッテ-日本ハム26回戦は、いつもの秋とは、少し様子が違った。球界再編問題でプロ野球に激震が走ったこの年、パ・リーグはプレーオフ制度を導入した。3位までに入れば、日本一の可能性がある。下位常連チームのファンにとっては、まさに天恵。0・5ゲーム差で追う3位・日本ハムとの直接対決は、誰が呼んだか「マリン決戦」。プレーオフ進出という未知の希望に導かれ、不人気の代表みたいなカードに、3万5000の大観衆が詰めかけた。

ロースコアのしびれる試合は、2-1と日本ハムリードで9回裏2死無走者。敗色濃厚の展開で、名手・小笠原道大が信じられないような連続失策を犯して同点。見たことのない熱量と聞いたこともない声量の歓声が、土曜のマリンを揺らした。

試合開始から、すでに4時間以上が経過して、スコアボードの時計は、午後5時30分を回っている。力ない残照を浴びるグラウンドに、場内アナウンス、谷保恵美さんの声が響く。

「11回裏、マリーンズの攻撃は、8番レフト、垣内」。代打から左翼の守りについた垣内哲也が打席に入る。

2年前、西武から移籍してきた垣内の応援歌は、ロッテ応援団のキラーチューン。「垣内哲也、垣内哲也、垣内哲也、ラララーラーラーラーラー」。フルネームを6回連呼し、「カ・キ・ウチ、カ・キ・ウチ、打て、打て、今ここで!」と叫ぶパンクな歌詞が球場にこだまして、ドラマの始まりを予感させる。

その初球。垣内のバット一閃(いっせん)。快音を残した打球は、サヨナラ本塁打となって、左中間スタンドに飛び込んだ。声にもならない声をあげ、知らぬ同士がハイタッチ、ハグし合って、球場全体が宗教的法悦にも似た歓喜に染まる。秋のマリンにいつまでもとどろく垣内の応援歌は、長い低迷期を知るロッテファンの絶唱でもあった。

04年9月11日のロッテ-日本ハム戦のチケット
04年9月11日のロッテ-日本ハム戦のチケット

あれから16年が過ぎた。プロ野球は、地上波からほぼ姿を消したが、観客動員は昨年、史上最高を記録した。テレビで巨人を見る時代から、球場で好きなチームを見る時代へ、プロ野球は変わっていった。あの日、マリンで見た垣内哲也は、テレビの中の長嶋茂雄より輝いていた。(球場名など当時、一部敬称略)【秋山惣一郎】