第93回選抜高校野球大会が19日に開幕する。2年ぶりに行われる大会を「帰ってきたセンバツ」と題し、さまざまな角度から大会終了まで取り上げる。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、新様式で開催される甲子園。グラウンド外にも、それぞれに思いを抱えて見つめる目がある。

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2年ぶりのセンバツ開催に、兵庫・西宮市の甲子園球場周辺の飲食店やホテルからは期待の声が聞こえてきた。

大力食堂の店主・藤坂さん(撮影・南谷竜則)
大力食堂の店主・藤坂さん(撮影・南谷竜則)

球場西側の商店街にある「大力食堂」店主の藤坂悦夫さん(82)は、1966年(昭41)の開業以来、ほぼ休むことなく営業してきた。名物は「勝負メシ」として知られるカツ丼。阪神の選手をはじめ柔道や相撲、アメフトなど多くの選手、部活帰りの学生らが験担ぎのために食べてきた。店内はサイン色紙でいっぱいだ。特に春と夏は高校野球ファン、球児の親族などが集まり店内はひときわにぎやかになる。「県外からの人が多くて『マスター、また来たよ』言うて、カツ丼食べて喜んでくれる。うれしいですよ」。関西弁で朗らかに笑った。

昨年のセンバツ中止は、毎年高校野球の時期に来る常連客からの電話で知った。夏の交流試合は無観客。客足が激減し、売り上げは新型コロナ前の30%前後まで下がった。この地で50年以上営業してきて初めての経験だった。それでも、なじみの客が元気を分けてくれた。「奈良から『雰囲気だけ味わいたい』言うて、球場を外から眺めて、(店で)飯食うて帰る人もいましたわ」。甲子園が取り持つ縁にほっこりした。

藤坂さんは今年で83歳になる。試合は店で見ることが多いが、たまに球場に行くと、観客から写真撮影を求められる。「いろんな人が来てくれるから。どんぶり1つ食うのに遠くから。飲食してて良かったなって思います。体が続く限り店はやろうと思います。春は(客が)来るでしょう」。再び高校野球ファンで店内がにぎやかになることを願った。

球場の目の前に位置する甲子園ホテル夕立荘は、例年代表校を受け入れる宿舎。島田昭一社長は「やっぱり、去年なかっただけにうれしく思っています」と声を弾ませた。感染予防対策として、球児たちと一般客のフロアを分け、できる限りシングルで部屋を提供する。食堂は選手のみ使用できるようにした。昨年は一般客のキャンセルが相次いだが「予約は少しは入ってきています。少し平常に近づいたのかな」という。約70年、球児の宿舎として利用されてきた。勝ったときも、負けたときも、孫のような存在の球児たちを出迎えてきた。球場へ行きたい気持ちはあるが「今年はテレビで応援しようと思います」。

もうすぐ、あの熱気と球音が聖地に帰ってくる。【南谷竜則】