高校野球春季北信越大会を取材に富山県に出張した。

北信越大会3連覇の星稜ナイン
北信越大会3連覇の星稜ナイン

【5月31日】

早朝から会社でルーチンワークをこなし午後4時24分東京駅発の「かがやき」で富山に向け出発。上野、大宮に停まると次は一気に長野へ。トンネルが多く、車窓からの景色は思ったより楽しめず。午後6時34分、富山に到着した。

徒歩で5分程のビジネスホテルにチェックイン。とりあえず荷物を置いて外出することにした。ホテルのフロントのお姉さんに近所にデパートか食料品店がないか尋ねた。すると駅にいろいろとあるという。再び駅に向かい地下のスーパーへ。富山といえばこの時期、白えびが旬である。鮮魚コーナーに300円ほどで生の白えびが置いてあったので買い物カゴへ。さらに名物のかまぼこ「赤巻き」「昆布巻き」もカゴへ。いかの黒造り(いか墨で漬けた塩辛)、最後に缶ビールを1本取ってレジへ並んだ。

レジのおばさんに白えびの食べ方を質問。するとこのままの状態ではかなり手間暇がかかるという。後日、居酒屋さんで食べることにして購入を断念。スーパーを出てホテル近くの酒店へ。「富山の地酒が欲しいんですが、何かありますか?」。いくつか紹介していただき、その中から「黒部峡」の純米吟醸(4合瓶)を購入した。

ホテルに帰りシャワーを浴び、かまぼこを肴に一杯。昆布巻きも良かったが赤巻きが気に入った。明日の朝も早いということで早めに休むことにした。

【6月1日】

第1試合開始は午前10時だが、同9時から開会式がある。そこで7時までには球場入りすることにした。5時半に起床し準備。6時から無料朝食が出るというので1階食堂で腹ごしらえ。ご飯を一膳。カレーもあったので食べてしまった。6時半過ぎにホテルを出発。駅まで歩き北口からタクシーに乗った。

会場の富山市民球場、通称アルペンスタジアムまでは車で20分ほど。同球場は20年以上前にプロ野球の取材で訪れたことがあるはずなのだが、ほとんど覚えていない。午前7時に球場に到着し、受付を済ませて記者席へ一番乗りした。いつものように電源を確保して、パソコンがつながるかどうかテスト。無事、速報態勢が整った。

記者席から外野方向を見渡すとまだ雪が残る立山連峰がうっすらと見えた。左翼後方には標高2999メートルの剱岳。アルペンスタジアムという名に偽り無しだ。

開会式直後の第1試合は星稜(石川)-砺波工(富山)。星稜先発はドラフト1位候補の奥川恭伸投手(3年)と発表された。今大会NO・1の注目選手である。

奥川投手はセンバツ2回戦で習志野(千葉)に敗れた後、右肩に張りが生じたという。このため春の県大会は1試合も登板せず。この日の砺波工戦がセンバツ後、初の公式戦登板となった。

奥川投手はさすがの投球。最速150キロをマークし6回を2安打無失点。試合は6-0で星稜が勝った。試合後は負けた砺波工を取材。6回まで星稜打線を1点に抑えた2年生エースの黒田俊希投手に話を聞いた。186センチ、92キロの大型右腕。投げ合った奥川投手のことを聞くと「簡単に見逃しストライクを取れるところが凄いと思いました」。ちょっと複雑な質問には「うーん」と何とも言えないくしゃっとした笑顔を見せながら「よく分からないんですよ」と訴えかけてくる。憎めない2年生だった。

第1試合が終わると記者が半分に減った。多くの記者が高岡市の球場で行われる敦賀気比(福井)-日本航空石川の試合へ移動したのだ。私も心が動いたが、移動時間が読めないし、高岡の球場で記者席に座れるかも分からない。高岡の試合は大阪本社のアマ野球担当キャップ、K原記者に任せて、アルペンスタジアムにに残った。

第2試合は富山第一と三条(新潟)。5-1で富山第一が快勝。直球のスピードがほとんど130キロ前後ながら、腕の出所が見づらい富山第一の左腕、浜田陸投手が印象に残った。

取材を終え、大阪から来たフリーライターのMさんとタクシーで富山駅方面へ。この日は先日、奈良で行われた近畿大会と同じメンバーで食事をしようということに。高岡の球場に移動した同じくフリーのSさん、Nさんと夜7時に駅前の居酒屋さんに集合となった。

ホテルで一休みしてから居酒屋へ。楽しみにしていた白えびの天ぷらを注文。これがおいしかった。ホタルイカの沖漬けもお酒にぴったり。富山の幸を堪能した。

白えびの天ぷら
白えびの天ぷら

【6月2日】

5時半起床。6時にホテル1階の食堂でバイキングを食べて出陣。またカレーを食べてしまった。タクシーでアルペンスタジアムへ。この日も一番乗り。

第1試合は星稜(石川)-東海大諏訪(長野)。星稜・奥川投手は登板しなかったが4-2で勝利。投手層の厚さを感じさせた。

試合後は東海大諏訪を取材。実はこの大会からユニホームを変えたという。東海大の付属高校は縦縞のユニホームでおなじみだが、生地の色が各校違った。東海大相模(神奈川)の青っぽいグレーが主流だが、東海大諏訪は春の県大会までは白地に縦縞だった。

藤井浩二監督に聞くと2年ほど前から付属校の指導者研修会で「ユニホームを一つにして結束を」という声が挙がっていたという。そこで諏訪も北信越大会からグレー地の新ユニホームに変えたというのだ。白星を挙げることはできなかったが「心新たにやっていきたいと思います」と藤井監督は話してくれた。

第2試合は富山第一が福井工大福井を破って準決勝進出を決めた。

取材を終え富山駅方面へ。タクシーを呼ぼうかと思ったが、経費節約。ここは電車での移動を決めた。ただ最寄りの東富山駅までは徒歩で30分ほどかかるという。それでもまだ時間は3時半過ぎ。何とかなるだろうとスマホの地図を頼りに球場を出発した。田んぼの中の道を駅に向かってひたすら歩く。済生会病院前を過ぎると駅らしきものが見えてきた。「よし、近いぞ!」と思ったが、どうやら駅入り口の反対側に到着してしまったらしい。目の前に駅舎、ホームがあるのに駅に入れない。地図を見ると左右どちらに行くにしても400メートルほど迂回して踏切を渡らないと駅に入れない。汗びっしょりになって駅に到着。球場を出て40分近くたっていた。急いで切符を買ってホームへ。電車は1時間に1本ほどしかない。4時18分発「あいの風とやま鉄道」の2両編成の電車に何とか乗ることができた。噴き出る汗をぬぐっていると6分ほどで富山駅に着いた。

予想以上に疲れた。駅地下のスーパーで缶ビールと総菜を買ってホテルへ。シャワーを浴びて冷たいビールを飲み干してようやく生き返った。前日買った「黒部峡」をちびちび飲みつつ「いだてん」を見ていたがいつの間にか寝落ちしてしまった。

新ユニホームで力投する東海大諏訪・横田投手
新ユニホームで力投する東海大諏訪・横田投手

【6月3日】

5時半起床。3日連続の朝カレーを食べて出発。この日は月曜日。通勤ラッシュで道が混んでいた。ただ、さすがは地元の運転手さん。裏道をすいすいと進み、7時過ぎにはアルペンスタジアムに到着。記者席に入った。

この日は試合開始の午前10時までに一仕事終えなければならなかった。ニッカンスポーツコムに掲載している連載コラム「野球好き歌手が選んだプロ野球5月の月間ベストナイン」をアップするのだ。すでに原稿は昨晩遅くメールで届いていた。

野球好き歌手とは5月15日に「真人間入門」で再メジャーデビューを果たした河野万里奈さん。先月は再デビューやワンマンライブもあって忙しかったはずなのに、今回も締め切りを守ってくれた。内容もグッド。記事に写真を付けて9時45分、無事アップした。

この日は準決勝。第1試合は星稜が富山第一を破って決勝進出を決めた。第2試合は敦賀気比が日本文理に快勝。敦賀気比の1年生1番打者、大島正樹外野手が三塁打2本を放つ活躍を見せた。試合後に取材すると京都嵐山ボーイズ出身。「プロで活躍している選手が多いから」と敦賀気比に進学した理由を話してくれた。目標の選手を聞くと「オリックスの吉田正尚選手です」と高校の先輩の名前がすぐに返ってきた。

この日も徒歩で東富山駅へ行き、電車でホテルに帰ることに。道は分かっているがやはり30分以上かかった。くたくたになってホテルへ。一休みしてネットで調べた居酒屋さんに向かったがなんとお休み。もう一件の店に向かったがこちらも休みだった。ガックリ。仕方がないので「ここでいいか」と飛び込みでお店へ。カウンターバーのようなお店だったが、お刺身もあるという。1000円ちょっとで盛り合わせにしてくれるというので注文。これが当たりだった。最後はなぜかオムライスを食べて富山ラストナイトは終了した。

【6月4日】

4日連続の朝カレーを食べ、ホテルをチェックアウト。キャリーバッグを引いて駅へ。ところが右腰から右足にかけてひどく痛む。2日続けて30分以上歩いたからか。歩くだけならこんな痛みは出ないはず。ただ今回はパソコン、モバイルバッテリーなど重い荷物を持っての移動だった。足を引きずりつつタクシー乗り場へ。痛みが引くことを祈りつつ球場に向かった。

10時に決勝戦が始まった。星稜先発は初戦から中2日空けたエース奥川投手。4回に1点を先制されたが失点はこれだけだった。7安打を許したが11三振を奪って完投。見事、3季連続の北信越王者へとチームを導いた。

150キロの直球もさることながら、スライダーが素晴らしかった。カウントも取れるし、鋭く落として決め球にもなる。自由自在に扱える。今春のセンバツで奥川投手のネット評論をお願いした西本聖さん(元巨人投手)の言葉を思い出した。「スライダーが良かった。あれだけ低めに制球できればなかなか打てない。プロに入ってからストレートのスピードを上げるのはさほど難しくはない。上半身を中心にトレーニングすればアップできる。しかし変化球を覚えるというのは時間がかかるし難しいもの。高校生の時点でこれだけの変化球を投げられればプロ入り後も苦労はしないだろう」。

現時点での完成度は163キロ右腕の大船渡・佐々木朗希投手を上回るだろう。知り合いのスカウトにメールすると「(1位指名を)佐々木で行くか奥川かで行くかで迷っている球団がありますよ」とのこと。こんな投球を見せられたらそりゃあ迷うだろう。

閉会式後、奥川投手の囲み取材に加わった。担当のK原記者から「すごくいい子ですよ」と聞いていたが、とにかく笑顔が良かった。その笑顔に映える真っ白な歯もいい。これはスター選手になれると確信した。

取材を終えタクシーで富山駅へ。昼食も食べていないし、新幹線まで時間があったので最後はラーメンで締めることに。食べたのはもちろん「富山ブラック」。真っ黒なスープだったが思ったほどしょっぱくはない。10分程で平らげ、会社と家族のお土産に白えびせんべいを買って新幹線へ。4泊5日の富山の旅が終わった。

星稜・奥川投手
星稜・奥川投手