ソフトバンク松田宣、東浜、高田、DeNA嶺井、山崎、広島九里、薮田…。「戦国東都」と称される東都大学リーグで、平成最多19度の優勝を誇る亜大。14年(平26)春に戦後初の6連覇を飾るなど、プロで活躍する選手を輩出しながら、結果を積み重ねてきた。04年から指揮を執り、リーグ優勝9度、明治神宮大会で3度日本一に導いた生田勉監督(52)の指導方針に迫った。

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亜大・生田監督は朝が早い。選手は午前5時40分から始める自主練習の前に、毎日野球日誌を提出する。「今は携帯のメールばかりで、文字を書くことに慣れてない」とパソコンは禁止で、誤字脱字は書き直し。表現の違いも直させる。毎日1時間15分ほどかけて約100人分の心の動きをチェックする。

厳しい練習と人間教育。近所の障がい者施設で、ボランティア活動も行う。「なぜそうなったかというと、僕の長女が知的障害なんです。こういうことは身内に誰かいないとなかなか経験できない。娘が障害をもって生まれてきたことで、彼らに経験させるきっかけをつくってくれました」。

生まれつき障害があった長女英恵(はなえ)さんは、就職活動も会社までの道に迷って遅刻してしまうなど苦戦した。「どうしても行きたい会社があったけど3回ダメで、最後にもう1回行こうとした時に、何ができるって言ったらあいさつだったんです」。あきらめ切れず、会社の玄関の前で笑顔であいさつを続けた。その姿が社長の目に留まり、再面接から採用が決まった。「娘は笑顔でチャンスをつかんだ。顔が晴れる。『顔晴る(がんばる)』です」。15年はこの言葉をスローガンに秋の明治神宮大会を制して日本一に輝いた。「必死に頑張って生きているんだから、あなたたちはもっとできるはず。もっと勉強してほしい。いつも学生に言うんです」。

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生田監督は今夏、大学日本代表監督として「ハーレムベースボールウイーク2018」(オランダ)で24年ぶりの優勝を勝ち取った。33得点、6失点で7試合全勝。日本の投手力とともに、犠打、スクイズなど小技を重視した戦いだった。きっかけは直前に2勝3敗と負け越した日米大学野球の戦いを分析したこと。

「150キロ以上のボールは、今の日本の大学生は打てない。145~150キロは、本塁打じゃなければ打てる可能性はある。それも手足が短くて小力がある選手。175センチ以上の選手はほとんど無理です。140キロ以下だと長打も出ます」

高校生のトップ選手の多くは直接プロに進む。大学日本代表は主軸でも、本場の145~155キロに対応するのは難しい。「今まで打ったのを見たのは、(西武)山川選手(当時富士大)ともう1人だけ。山川選手も手足が短くて身長は高くない」と言う。

大学生の打撃力は以前より落ちているのか。「それは分かりませんが、野球人口が減って、いい選手が他の競技に取られていると思うんです。お金もかかるし野球ができない母子家庭も増えている」。野球人口の減少、底辺の拡大…。生田監督が声を掛け、8月には北海道・釧路市で巨人、ソフトバンクの3軍、トヨタ、JR東日本、ホンダの社会人、日体大などが参加する交流戦を開催している。

「沖縄は12月でも暖かいですから、侍ジャパンの社会人、大学チームに、各地の大学選抜チームなどをつくって。クリスマスから予選をして、正月の箱根駅伝の時に準決勝、決勝なんてやったらどうでしょうか」

「戦国東都」と称される厳しいリーグ戦を戦いながら、野球界全体の問題にも取り組んでいる。(この項おわり)【前田祐輔】

7月、優勝会見でトロフィーを手にする、左から大学日本代表の日体大・松本、亜大・生田監督、立命大・辰己主将
7月、優勝会見でトロフィーを手にする、左から大学日本代表の日体大・松本、亜大・生田監督、立命大・辰己主将