取手二は1回表に2点を先制した。2死から3番下田和彦の二塁打、4番桑原淳也の中前打に敵失が絡んだ。

その裏に2死二塁で4番清原和博を迎えた。右翼ポール際に特大ファウルを放った清原は一瞬「本塁打では?」という表情を浮かべた。すかさず監督の木内幸男がベンチから「内角を攻めろ」とジェスチャーを送る。エース石田文樹は清原の体にぶつけた。

決勝の前夜、宿舎でPL学園対策のミーティングはしなかった。ただ、バッテリーは清原への攻め方を確認していた。同部屋だった小菅勲が言う。

小菅 根を詰めた話はしていなかったけど、「どうせ打たれるなら攻めていこうぜ」と話していた。

取手二は茨城大会直前の6月24日、PL学園との練習試合で0-13と大敗した。桑田真澄に1安打完封を喫し、清原にはバックスクリーンへの1発を含む4安打4打点と打ち込まれた。

序盤の2点リードでは、まるで安心できない。まして相手は「逆転のPL」という異名を持っていた。PL学園の三塁側アルプススタンド前で守っていた左翼の下田和彦が、試合中の重圧を語る。

下田 PLの応援って重低音なんだよね。ズンズンってね。応援の迫力を間近で感じていた。

6回裏、1点差に迫られた。桑田の二塁打の後、失策が生まれた。ただ、このイニングは、取手二らしさが出た守りでもあった。

まず石田の大きなミスが生きた。無死二塁で左前打を浴び、本来なら投手は捕手後方へバックアップに入る。だが、石田は忘れていた。マウンド付近にたたずんで、目の前にきた返球を捕った。すると打者走者が二塁を狙っている。二塁に投げてアウトにした。二塁走者は三塁で止まり、失点にもならなかった。

下田 打たれて、バックアップ忘れちゃったんだろうね。ちゃんとしたチームならありえないプレー。打者走者は黒木(泰典)だったかな。ビックリしてた。何でそこに投手がいるのって。偶然のプレーだった。

石田は8回にも本塁バックアップを忘れ、ここは失点に結び付いている。

続いて吉田の好守備が出る。1死三塁で三塁方向へゴロが飛んだ。サード小菅勲のグラブをはじいた打球を、ショート吉田が素早く捕球して本塁で刺した。

吉田 サインがカーブだったから三遊間に寄っていたんだ。PLは完全に抜けたと思っただろうね。

この回を1失点でしのいだ。ベンチに戻ると、木内が打球をはじいた小菅に「足が動いていないぞ。もっと目線を低くして構えろ」と声をかけた。

吉田 あっ、監督は焦ってんなと思った。普段そんなこと言わないもん。アウトになったんだからええやん。でも、PLに勝ちが見えてきたから。あの人が焦った姿を初めて見た。

この直後の7回表。2死から小菅が二塁ベース付近に内野安打を放った。一塁にヘッドスライディングした。吉田が打席に入った。

吉田 小菅のスライディング見て燃えたよ。ここは長打を、ホームランを狙おうとね。

桑田のカーブをとらえた。打球は左翼ラッキーゾーンに飛び込む2ラン。点差は3点に開いた。吉田は何度もガッツポーズをしながらベースを回った。

吉田 勝ったと思った。「優勝インタビューを考えないとな」と思っていたぐらいだから。

しかし、クライマックスはここからだった。

(敬称略=つづく)【飯島智則】

(2017年12月8日付本紙掲載 年齢、肩書きなどは掲載時)