阪神・馬場皐輔投手(22)が、やっとプロのスタートラインに到達した。5月5日、鳴尾浜球場で行われたクラブチームとの練習試合だったが、プロ入りして初の先発マウンドにあがった。球速はマックス149キロをマーク。立ち上がりはトップバッターを3球三振に切って取るなど、3者連続三振。上々のスタートを切った。相手を考えると力の差を感じさせるピッチングは「さすが」と思わせたが、“野球の世界”そんなに甘くはない。2回、3回は先頭打者にヒットを許してピンチを背負った。確かにまだ不安は残したが東北人の粘りは、後続を断ち切って予定の3イニングを無失点に抑えた。まずは第1関門を突破した。

 大学出だ。ドラフト1位である。すでに1軍で活躍している選手がいるというのに、ちょっと出遅れの感は否めないが、練習中に右足首を痛めるアクシデントに見舞われたのが原因。練習中の出来事とあっていたしかたない面はあるが、スポーツ選手である以上ケガは禁物。本来ならしてはならないもの。「もう大丈夫ですが、ケガをしたらどうなるかいろいろ勉強させていただきました」は馬場。投げることができない。走ることもできない。いたたまれない。悶々とした苦しい日が続いた。自分との戦い。プロ野球界で生き抜いていく以上何事も無駄にするな。たとえ運悪く転んだとしてもただでは起きるな。今後の糧となる何かをつかんで起きてこい。それがプロである。肝に銘じてほしいね。

 日々、己との葛藤だったが、やっと訪れた自信を取り戻すためのマウンド。チャンスは巡ってきたとはいえ、いくら相手がクラブチームでも厳しい状況には違いない。いいピッチングをしてあたり前。逆にノックアウトされようものなら、信頼はさらに遠のく。「結果的に得点を与えなかったことはよかったと思いますが、先発した以上は先頭打者を塁に出さないことがテーマですから…。やはり初球のはいりかたとかもっと、もっと勉強して、経験する中で自分のものにしていきたいです」馬場はこう振り返っていたが、3イニングではあっても、試合で投げられたことへの満足感はあったようだ。

 首脳陣の目にはどう映ったのだろう。ネット裏にまできて馬場のピッチングを見た高橋ピッチングコーチは「初回のパフォーマンスが続いたなら1軍を考えないといけないが、まぁ、予定の3回を無得点に抑えてくれたし、次は5イニングですね」ジョークを交えての談話は、順調に進んでいる内容の証とみていいだろう。そこへいくと矢野監督の話には現実味があった。「先発投手として育ってほしいピッチャーです。もっとスピードが出るに越したことはありませんが、球の切れです。要するに生きた球。もっと、もっとストレートにこだわってほしい」である。ドラ1投手。もっと先を見据えていた。

 マウンド上の馬場。久しぶりにピッチングを拝見した。テークバックの小さいフォームは相変わらずだが、腕はよく振れている。確かに球の出どころはわかりにくい。この日の球速、マックスは149キロが出た。加えて球質はズシリと重い。そういえば今年の1月、自主トレの頃に話していたこんな言葉を思い出した。「課題は自分の目の前に必ずあると思います。プロの世界のピッチャーに必要なのは球の回転。切れ。伸びです。バッターから見て“投げた球がいつの間にか手元にきていた”という球質を求めていきたい」である。そして、今なお「伸びのあるストレートにこだわっていきたい」目指す方向にブレはない。そのこだわりに期待したい。

 まずは、故障というアクシデントにぶつかった。今後も技術的なこと。精神的なこと等々。数多くのプレッシャーが襲ってくる。誰も助けてくれない。自分ではい上がれ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)