5回表オリックス2死満塁、西浦に中前2点適時安打を打たれ渋い表情を見せる岩貞(撮影・奥田泰也)
5回表オリックス2死満塁、西浦に中前2点適時安打を打たれ渋い表情を見せる岩貞(撮影・奥田泰也)

野球は技術面、作戦面など難しいことが多いスポーツだ。しかし同時にものすごくシンプルな考えも存在する。「野球は投手」。1度は聞いたことがあるだろう。先発投手が好投すれば、アマでもプロでも、それなりの戦いができるのは常識である。

センバツが開幕した。第3試合で優勝候補の星稜(石川)と履正社(大阪)が激突。注目のエース奥川恭伸(3年)が17三振を奪う活躍で星稜が勝った。打線も3点を取ったが、まあ、典型的に投手の良さで勝った試合ではないだろうか。

オープン戦最下位に低迷する阪神の試合では、ちょっと考えさせられる場面があった。1点ビハインドで後半に持ち込みたい5回表だった。好投していた岩貞祐太は簡単に2死を取る。さらに8番・若月健矢も何でもない三ゴロ。しかし三塁・糸原健斗はこれを一塁へ悪送球した。これで流れが悪くなった岩貞はそこから安打、四球、安打で2点を失った。自責点にこそならないが勝敗にハッキリ結びつく痛い失点だった。

高校野球の話を書いたので阪神のレジェンド・江夏豊の50年以上前の話も書く。大阪学院高時代から並外れた左腕だった江夏が甲子園にもっとも迫ったのは1966年(昭41)3年夏の大会だ。

江夏の活躍で準決勝まで進んだ相手は公立校の桜塚。大阪・日生球場での試合は3回、大阪学院の守備陣に一気に3つの失策が出て、1失点。結局、これが決勝点となり0-1で甲子園への夢は散った。しかし江夏は怒らなかった。

「高校に入った頃、1度、味方の失策にふてくされた態度を取ったら監督にえらいドヤされてな。そのときからオレは味方に失策が出ても怒ったことはないんだ」。かつて本人から聞いた話だ。

阪神の課題は打線、得点力だが同時に守備力でもある。昨季の失策89は12球団ワースト。そんなに失策が多いのだから無理もないと考えるか、だからこそと気持ちを引き締めるのか。そこが投手の分かれ道かもしれない。

好投しながら3失点(自責1)で敗戦投手になった岩貞はどう考えているか。

「味方のエラーの後こそ粘らなければいけませんでした」。これが広報担当を通じて来た岩貞のコメントだ。その通り! とうなずいた。失策に怒らないのと同様、失策が出ても後続を断ち、何事も起こらなかったように振る舞うのがエースになる条件だ。自分が打たれても味方が打ち勝つ試合だって、ある。口で言わなくてもそんな信頼関係が出来上がってこそ強いチームになるはず。アマもプロも。(敬称略)

5回表オリックス2死一、三塁、ピンチを迎えた岩貞(右から2人目)は激励を受ける(撮影・宮崎幸一)
5回表オリックス2死一、三塁、ピンチを迎えた岩貞(右から2人目)は激励を受ける(撮影・宮崎幸一)