2月18日の土曜日。キャンプ中に行われたDeNAとの練習試合で、岡田は珍しい行動に出た。リリーフした岡留、ストライクが入らない。死球、暴投、四球としたところで、岡田は投手交代を告げた。理由は試合後に語っている。「チームに悪い影響を与えるから」。若い投手に対して、厳しい姿勢で臨んだ。

アレッと感じた。岡田は比較的、若い選手に対しては寛大で、我慢することが多かった。だから今回の対応は、意外に映った。

「若い選手は経験を積んで、プロの力を実感するわけよ。そこで、いかにいいスタートを切らせるか。これも監督やコーチの仕事なんや」。このキャンプ中にも、同じような表現で、若手の支援を約束していた。「特にピッチャーよ。ひとつ勝つことで、ホンマ、ガラッと変わるからな。だから、オレは勝たせる方法を考える」。

岡田と昔話をした。若い投手にまつわる話になった。「覚えているかな? 2007年のことよ。あの時はホンマにハマったわ」。話題の主は上園啓史。大学・社会人ドラフト3巡目入団だったが、デビューは遅れた。岡田は何とか上園に勝ちをつけたい、と考えた。

初登板をすませた上園に初の先発指令がきたのは6月20日。甲子園での交流戦、楽天戦だった。なぜその日になったのか? 岡田は笑いながら背景を明かした。「あの頃、パ・リーグで一番打力が劣っていたのは楽天やった。だから、そこをターゲットにして、先発させた。とにかく早く1勝と思ったから」。

ところが相手の先発はあの田中マー君。それでも岡田は自信があった。マー君から1点は取る。だから上園が点を与えなければ、勝てる。臨んだゲーム、上園はベンチの思惑通りに投げ、6回無失点。結果、逃げ切ってプロ初勝利となったのである。

「あれで上園は自信をつけた。その後、ローテーションを守り、8勝よ」。規定投球回には届かなかったが、ライバル不在で新人王に選ばれた。岡田のこれまでの監督生活8年で、初めて現れた新人王。それだけに、強く印象に残っている。「そういうことやんか。若い投手が自信をつけるには、勝ちを手にすることよ。それは今も昔も変わらんしな」。

2023年シーズン、阪神には多くの若手投手が名を連ねる。西純、才木にしても、すでに初勝利をマークしているが、まだ経験が浅く、まずは2023年の初勝利が大事になる、と岡田は考えている。「早い時期に勝てば、より自信が深まり、大きくなれる。そこをベンチとして、考える。とにかく若い先発、中継ぎ、クローザーもいいスタートを切らせてやりたい」。おやじ、祖父のような語りで、岡田は願っている。

今回の岡留は例外。一刀両断、切り捨てたが、例えばシート打撃で新外国人2人に連弾を浴びた桐敷には、しっかりフォローしていた。「打たれたけど、いい球はいっていた。それをコーチから本人に伝えるようにした」。若い選手には厳しいだけではない。そっと気配りするキメの細かさを出す。

「監督の仕事って何? って聞かれるやん。そら勝つことよ。チームを強くして勝たせることに決まっているけど、他には選手の給料を上げてやるのも仕事やと思っている」。このことはいつも岡田は口にする。

選手がいい仕事をして、オフの契約で年俸アップにつなげる。これも監督の役割と、決めている。「選手には生活権があるわけよ。いかに待遇をよくしてやるか。選手個々のタイプにもよるけど、起用法によって選手が輝き、いい活躍ができる。それが金につながるわけよ。選手の年俸を上げる! これが監督の仕事」。だから若い選手には可能性を消すことなく、働ける環境を整えていく。そういう意味では、結構、やさしいオヤジ監督なのだ。

自分が味わった新人の時の理不尽な扱い。当時の監督、ブレイザーを憎んでいないけど、ああいう考えは持たない、と心に決めた。よければ使う。使うと決めたら、タイミングを計る。若手が自信を得るように、岡田は支えになることに注力する。【内匠宏幸】(敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)